でもどうしようもないし、俺等、動くこともできない。

だって飯の追加分買っちまったしさ。此処で俺達が動くってのも、逃げるみたいでヤじゃんか。なあ?



「おいおいプレインボーイ。逃げるってなくねぇか? ツレねぇーな」



呼吸が止まりかける。

田山圭太の目の前は真っ白になりそうだ。


某不良の声を聞くだけで眩暈が……奴のちょっかいと嘲笑う表情が俺は恐ろしくて堪らない。


まるで獲物を甚振るかのような目で俺の反応を観察してくるのだから。


こんの悪趣味青メッシュ不良がっ、お前の性根は鬼畜だろ!


心中で毒言しながらぎこちなく振り返る。

わぁあお、日賀野大和ご本人が俺を嘲笑っている! いやだもう、この人っ、生粋のジャイアンだわ!


それから既にご対面したことある不良や、見たことのない不良もチラホラチラホラと二階フロアに姿を現した。


今、この瞬間に俺達のいるMック店は戦場と化したよ。

一触即発っていうの? お互いに睨み合っているというか、空気に高圧線張っているというか、とにもかくにも醸し出されているオーラが恐ッ!


他のお客様達がただならぬ雰囲気に、息を殺し始めている。


すんません、平和なお食事をしている最中だというのに。

俺達もできることならこんな空気を醸し出してくないんだけどヨウ達が……俺、帰りたいんだけど。


「出やがったな。ハイエナ。此処は既に満席だ余所に行け」


ぶわっと殺気立つヨウの挑発に、日賀野が受けて立つ。

奴の辞書に引くなんて言葉はない。


「ほお、ここは貴様の店か? 単細胞。まあ、貴様の店だとしても指図を受ける気はねぇ」


「目障りだ」「奇遇だな俺もだ」


挨拶代わりに悪態を付き合う両リーダー。

あからさまに眉根を寄せるヨウに対し、日賀野はシニカルに笑って受け流している。


ただし、目はちっとも笑っていない。

嫌悪感丸出しでヨウにガンを飛ばしている。


赤メッシュ金髪不良と青メッシュ黒髪不良の睨み合いに俺は泣きたくなった。ガチ恐ぇんだけど!



「およよよ~ん? そこにいるのは服のセンスゼロのアキラちゃーんじゃーん! なあに、僕ちゃーんに会いに来てくれたっぴ? だったら、とんだいい迷惑だけどな」

「あららら~ん? ぶりっこがお得意のワタルちんがわしに会いたい思っていたんじゃないけえ? 勘違いも甚だしいんじゃい」


親友同士だったワタルさんと魚住のやり取りも恐いんだけど。

ウザ口調でやり取りしてるから、彼等を知らない第三者が聞くとウザいだけの会話。


けれど事情を知っている第三者が聞くと、ただ単にウザい会話だなんて思えなくなる。


お互いの取り巻く殺気を肌で感じていれば、嫌でも二人の関係柄を察してしまうもんだ。

親友同士がこんなにも対峙してしまうなんて、ちょっと哀しい現実を見ている気もした。


「アーキーラ。丁度良かった。おい、アンタ、面貸せ」


二人の対立ムードに割って入って来たのは響子さん。


青筋を立て、関節を鳴らし、目を据えて仁王立ちしている。……魚住となんかあったのか? 響子さん。魚住も憶えがないらしく、首を傾げている。


「なーにを怒っているんじゃい、響子。ワッケ分からん女じゃのう。お、それより舎弟とそっちの女。あれは役に立ったじゃろ?」


ニヤッと魚住が口角をつり上げてくる。 

あれ? 俺とココロは目を点にさせた。

次の瞬間、あれの意味を理解し赤面。や、役立ったわけねぇだろ! 俺達、そういう関係じゃねえんだからさ!


「その様子じゃヤったんじゃな」


茶化してくる魚住に俺等は声を揃えて否定した。


「隠す必要なかろうに」


肩を竦めてくる魚住は、まだニヤついてる。