「何処でもいい。さっさとツマラねぇこと済ませるぞ。だりぃな」



ガリガリと頭部を掻く日賀野に、


「喧嘩のことに以外になるとこれ。ヤマト、本当に喧嘩が好き」


帆奈美さんはやや呆れ気味だった。


俺はドッと嫌な汗を掻く。

ちょっとちょっとちょーっと、俺のトラウマ魂が泣き始めているんだけど。


なんでこんなところにまで、俺のトラウマが現れてくれるわけ? 少しはさ、インターバルが必要じゃね? この前お会いしたバッカなのに。


日賀野が何気なーくこっちを見てきた。


ギョッとして俺は思わず後退。

目を丸くしてきた日賀野だったけれど、不機嫌面が一変、面白そうな玩具でも見つけたような笑みを浮かべてきた。


「よう、プレインボーイじゃねえか。俺達は運命の赤い糸でも結ばれているみてぇだな」


ヌァアアアア!

そんな嫌がらせな表現はいりませんから!

寧ろ運命の黒い糸だろ、俺等!
フルボッコで繋がった憎き黒い糸で結ばれているんだー!


……嗚呼や、やばい。日賀野不良症候群が出てきたようだ。ヤな汗がたらたらと流れ始めてきた。口の中も渇いてきたぞ。


「こ、ココロ急いで戻ろう!」


早くヨウに報告しないと! 俺はココロに声を掛ける。

コクコクと何度も頷く彼女を先に行かせ、俺も急いで階段を駆け上がった。


大慌てで勉強している皆のところに戻る。

途中、ココロが躓いてコケそうになったから、片手でトレイを支え、片手で彼女の体を支える。


よってトレイの上の商品は床に叩きつけられることなく、難を乗り越えた。


やり取りにワタルさんが口笛を吹く。

響子さんが肘打ちをかましたようだけれど、俺達はそれどころじゃない。



テーブルにトレイを置くと、「やばい」「いました!」「どうする!」「どうしましょう!」矢継ぎ早に報告。



ただ俺もココロも単語たんごしか言わないもんだから皆には伝わらない。首を傾げられる始末だ。


けれど俺の激しい動揺っぷりを目にしたヨウは、逸早く察してくれる。

そう、俺がこんなにもパニクったり、動揺したり、テンパったりすることといったら日賀野のことしかない。


俺はヨウに日賀野が怖いこと。

トラウマになっていることを伝えている。


改めて舎兄弟になった際、俺のメンタル面の弱い部分をヨウに教えていたんだ。これが弱点にもなり得るしな。


教える当時は微かな羞恥心もあったけど、チームに支障が出たら申し訳ないと思ったから、日賀野にフルボッコされた時のトラウマが植え付けられているとヨウにだけ教えた。


トラウマが足手纏いになったらごめん、克服するよう頑張るから。そう付け足して。


ヨウは笑うこともなく、「そっか」とだけ言葉を返してくれた。

だから俺の動揺っぷりにヨウは気付いてくれたんだ。日賀野が店に来たってこと。 


「落ち着け、大丈夫だから。ケイ」


気を落ち着かせるように、ヨウは俺の肩を叩いてくる。


「ご、ごめん。ただちょっと気が動転っていうか、なんていうか、俺の運命の黒い糸の相手が現れて泣きたいっていうか!」

「大丈夫だって、ケイ。深呼吸しろ」


何度も肩を叩いて俺の気を落ち着かせるヨウは忌々しそうに顔を顰める。


「ヤマト達が此処に来た、か。厄介だな。マジで」


ヨウの呟きによって、俺の動揺の意味を理解した他の仲間達はこれまたリーダーと同じように眉間に皺を寄せる。