――ヨウにあんなことを言われるなんて思いもしなかった。


学生で混み合っているカウンター前。

注文をするべく列に並んでいた俺は小さな溜息を零し、ヨウのやり取りを思い出していた。舎兄に俺の気持ちを見透かされた。


俺自身すら認められないその気持ちを、糸も簡単にヨウは見透かしてきた。


よりにもよってココロの想い人に、心情は複雑だ。


気晴らしにカウンター上のメニューパネルを眺める。


パネルは新メニューやポテトが半額だと告知してくれている。


俺も追加として何か頼もうかな。


けど金が掛かるしな。


うんぬん思考をめぐらせていると、「ケイさん」ココロから声を掛けられる。彼女に視線を流す。

ちょっぴり困り顔を作っている彼女は、前に詰めようと前方を指差した。

ぼんやりしている間に列が進んでいるようだ。


「ごめんごめん」


片手を出して、俺達は距離を詰めた。

この間にココロと何か会話をしたいけれど、話題が見つからない。


他愛もない会話でいいと思うのに、それすら見当たらない。


ヨウが指摘したように俺は彼女を意識しているに違いない。


ただ自分の気持ちを受け入れられないだけで、俺は彼女を。


……ぐぎぎっ、だんだんと自分がウザくなってきたぞ。俺は恋する乙女か! 苦悶するくらいならすっぱり諦めたらいいだろうよ。俺、男でねぇよ!


「ケイさん。前、進んでいますから」


自分の世界に浸っていると、背中を押された。

呆れ顔の彼女を見やり、やってしまったと心中で溜息をつく。


何かあるとすぐ脳内で一人漫才を始めちまうんだよな、俺って。


表向きではココロに両手を合わせ、内心では溜息と羞恥心の狭間で揺れていた。


「考え事ですか?」


ココロの問いに、眠気に襲われていただけなのだと弁解する。


今の気持ちを悟られるわけにはいかない。

知られたら最後、俺は一生ココロと顔を合わすことができない!


幸いなことにぼんやりしていた理由に触れられる直前で順番が回ってきた。


携帯でメモを取っていてくれたココロが皆の注文の品を頼んでいく。

スマイルを作っている店員さんにお金を支払い、列から外れて商品を待つ。

大量オーダーをしたもんだから少しばかり時間が掛かるだろう。

俺は思い切ってココロに声を掛け、話題を振った。


内容は追試組の勉強の進捗状況について。


何か話を振らないと、まーた脳内で一人漫才をしそうだ。その前に会話をしておこうと思った。

話に乗ってくれるココロはどうにか追試はパスできそうな雰囲気だと評価していた。


会話をしている間、魚住事件を引き摺っている気まずさはない。

お互いに意識し合うことをやめたかのように、他愛もない話で盛り上がる。