仮にその状況が弥生とだったら、ケイは同じ態度を取っていただろうか? いや、きっとないだろう。


お得意の調子ノリで受け流して仕舞いにするに違いない。


相手がココロだから、彼女だから、ここまで意識して気まずくなってしまったのだ。



つまりそれは、そういうことなのだ。



「違う。俺は、ココロとこれからも好(よ)き地味友でいたい。それ以上の気持ちはないんだよヨウ」


「頑固だなお前も……あ、ココロじゃねえか。何しているんだよ」



出入り口に向かって驚愕を露にすると、ケイが大慌てで同じ方角を流し目にした。


しまったと舎弟の顔が引き攣り、ヨウがにやりと口角を持ち上げる。


ココロが此処に来るわけがない。



何故なら此処は男子トイレなのだから。



「もういいだろケイ。お前は好きなんだ、ココロのことが」



素直になった方が気も楽だぞ。

ヨウの助言に、ケイが口を閉じてしまう。


拍数を置いて一時的に意識しているだけなのだと返答した。


どうしても好きな気持ちを受け入れられないらしい。


それに気付きいたヨウは認めちまえと肩を竦める。自分を誤魔化しても一緒ではないか、言葉を付け足して。


ケイは苦々しく笑い、「認めたくないんだ」気持ちそのものを否定した。



「俺、友達のままがいいんだ。やめようと思っている。意識するの……これからも俺とココロは親近感抱く地味友だよ」


違和感を覚えた。


「……なんで、そこまで拒絶する必要があるのか、俺には分からねぇよケイ。まるで悪いことをしているみてぇにテメェ、自分の気持ちを拒んでいるぞ」


それって辛くないか?

相手に問うと、「彼女を困らせる方が辛いよ」ケイがようやく素直な一面を垣間見せる。


困らせるもなにも二人は両想いなのだ。

傍から見れば互いに告白しておしまい、だと思うのだが。


しかしヨウは直後、舎弟から驚かされる。ケイはヨウにこう告げたのだ。



「ヨウ、ココロにはな。好きな人がいるんだ。俺の気持ちがそういう気持ちを抱くと邪魔になる。だから、いいんだ。今のままで」