「なあ、テメェが田山(たやま) 圭太(けいた)だろ?」



地味くんが地味に学校生活を送っている一番の理由はこれしかない。

ずばり、目立つ面倒事に巻き込まれたくない、だ。 


髪染めや眉剃りをすれば校則違反だのなんだの学年主任から口酸っぱく言われ、反骨精神を見せれば小生意気だと担任に反感を抱かれる。


だからと言って教師と仲良くするようなタイプでもない俺は、相手の反感を買わないよう気をつけつつ、けれど極力関わりも持たないよう穏便に過ごすことを第一としていた。


教師の反感を買ってもロクなことがないと分かっていたし、俺自身、センセイダイスキ! と、騒ぐような人間でもない。


クラスでは日陰人間として位置づけられているのだから、自分から率先して目立つという行為を振る舞いたくないのである。


「そうだよな。お前が田山だろ?」


なのにどうして俺は今、クラスメートから大注目を浴びているのであろう。


それは穏やかに時が流れている昼休みのこと。


友達とガンプラの話題で盛り上がっていた俺は、突然の訪問者に食いかけのタコさんウインナーを弁当箱に落としてしまった。


おずおずと相手を見上げれば、決して今後の学校ライフにおいて俺とは関わりを持たないであろう他クラスの生徒が突っ立っていた。

一言でいえば“目立つ人間”に属されているそいつの身なりは、金髪に前髪赤メッシュとやたらチャラけている。


ピアスといい、乱れた服装といい、俗にいう“不良”に位置づけられる人間は俺を見下げて、片眉をつり上げていた。返事を待っている様子。


「え、あ、田山は俺ですけど」


ぎこちなーい笑みを作ると、


「放課後、体育館裏に来いよ。てめぇに話があるんだ」


用件はそれだけだと片手を挙げ、さっさと教室を出て行く。


ぽかーんとしている俺の顔から見る見る血の気がなくなった。


「うそだろ。あ、あ、荒川(あらかわ) 庸一(よういち)に呼び出されちまった」