「池田、潰されたと聞いた。真実?」



時刻は午前様過ぎ。

翌日を迎えた刻にも関わらず、日賀野大和率いる不良チームは店で飲食、また小さな遊技場で時間を潰している。


ここはチームメートの親族が持っている店で今は休業しているため、勝手に使用している。

よって補導員の目を気にしなくてよい。


各々時間を過ごしている最中、小柳 帆奈美(こやなぎ ほなみ)はチームリーダーに疑問をぶつけているところだった。

ビリヤードを楽しんでいたリーダーのヤマトは短く肯定の返事を返す。

「そう」

帆奈美は相槌を打ち、支障は出ないのかと更に疑問を重ねる。

「ああ」

やはりヤマトは短い返事を返すだけ。

何処となく愉快を含んだ表情に本当に大丈夫なのかと帆奈美は憮然とするが、ヤマトの表情は変わらない。


「今日は谷津田がやられてやがる。その前は井浦のところだ。ああ、そうだ、堀のところもやられたな」


着実に向こうは自分達と繋がっている不良達を潰しに掛かっているようだ。

不利な状況にまでは至っていないが、優勢という地位は崩れつつある。

芳しくない状況を嬉々に語るヤマトは実に楽しそうだ。


どうせ、本気で荒川達とやれると胸を躍らせているのだろう。


それだけ向こうが本気を出してきたのだ。

ヤマトにとっても血の気の多い男面子にとっても、嬉しいことだろう。


自分はあまり興味はないけれど。

帆奈美は冷然した眼を彼に投げかける。

ヤマトはティップ表面にチョークを塗りながら話を続けた。


「単細胞な荒川にしては最近、頭を使った行動が多い。行動が慎重だ。大方、チームの入れ知恵だろうけどな。あいつの最大の弱点は周りが見えなくなるところにある。熱しやすく冷めにくいってヤツだ。
怒れば怒れるほど、周りが見えなくなる。仲間に手出しされでもしたら頭が沸いて猪みてぇに突っ込んで来やがる。

それが最近目立たなくなったってことは、誰かがあいつをセーブしてやがる」


「あのヨウがセーブ……貴方の気に入っている舎弟のせい?」


「あるいは副頭の相牟田。もしくは三ヶ森辺りだろうな。貫名や荒川の犬は荒川と同じ血の気が多いしな。土倉は頭が切れるが、荒川をセーブするまでの力量はねえ。
向こうもメンバーを増やしているが、荒川をセーブとしているとなると、今の三人に絞られる。いっちゃんの可能性は例の舎弟だろうがな」


「信じ難い」

「ククッ。そりゃお前が中学時代のあいつしか知らないからだ。気になるか? 荒川のこと」


意味深な問い掛けに、「冗談」帆奈美は機嫌を損ねた。


確かに荒川庸一とはセフレ関係ではあったが過去の話。

もう相手に想うこともない。


それを知っていての問い掛けだったら心外だ。


不貞腐れる帆奈美に、「悪かった」ヤマトはシニカルに笑いながら詫びを口にする。完全に自分の反応を楽しんでいる。

「酷い男」

気分が悪くなったと帆奈美は不機嫌に言い、荒々しくカウンターに腰掛ける。