おいおい、これってさ、「嫌です」なんて口にできない雰囲気じゃね? 言ったら最後、どんな地獄をみるか。



それに俺はノーとは言えない日本人だったりするわけだ。


うん。もう涙が出てきそうなんだけど。

髪を綺麗に染めちまって。


俺のために、誰でもない俺の背中を追い駆けるために。


ここで無理とか嫌とか言ったら、俺の立ち位置は“嫌な男”で決定だろおい。


心中でシクシク涙を流しつつ、


「分かった」


じゃあまずは兄弟分で頑張ってみるか。相手の頭に手を置いて承諾する。



一層目を輝かせ、大はしゃぎするキヨタ。



「なら、これからは俺っちもチャリの後ろに乗ってもいいッスよね! ケイさんのメアドも教えて下さい! それからそれからヨウさんに負けないよう頑張りますッス! 打倒ヨウさん!」


「ちょっと待てキヨタ。そんなことしたらヨウさんがケイのチャリに乗れないだろ。こんなナリでもケイはヨウさんの足なんだぞ!」


それまで静聴していたモトが意見してくる。


「こんなナリとはなんだよー!」


ケイさんはたった今から俺っちの兄貴だぞ! ハートはヨウさん以上にイケメンなんだ! キヨタがガウガウ吠えた。


「あ゛! それはオレに喧嘩売った発言なんだ!」


ヨウさん以上の男がいるわけねぇだろバーカ! モトもバウバウ吠える。



……うっるせぇよいお前等。



両耳に指を突っ込んで後輩達の喧嘩を眺めていると、ポンッとヨウが肩に手を置いてきた。

励ましてくれるかと思いきや、


「チャリの後ろは俺の特等席だよな? 舎弟」


なんか予約してきたよ、この人。にこやかな笑顔が恐いんだけど。


「ったく。結果よければすべてよしとは言うが……今回は振り回された気分だぜ。ったく」


悩んでいた俺が馬鹿みたいだとヨウが肩を落とした。

誰よりも俺が振り回されたんじゃ、と出かかった言葉は嚥下することにする。