「お前凄いじゃんか。体躯のハンデも乗り越えて、こうやって相手を伸しちまうんだから。倒したのはお前だ。そしてヨウの危機を救ったのもお前だ。大手柄だよ」


目尻を下げると、キヨタがまじまじと俺を見つめてくる。

「どうした?」

視線を返すと、

「俺っち、ケイさんのこと超見直したっス。何も出来ない人だと思っていたけれど、本当は凄い人だったんですね!」

キヨタから多大なお世辞を貰ってしまった。


「ありがとう」


褒めは受けておくことにしよう。

チビ不良の頭に手を置き、ヨウに視線を流す。


向こうの喧嘩も終わりかけているようだ。

ナイフという凶器が無くなった途端、形勢が逆転している。

池田はヨウの痛烈な蹴りや拳の餌食になっていた。トドメの一発だと肘鉄砲を鳩尾に入れられ、池田が崩れる。ヨウが頭を討ち取った瞬間だった。



安堵の息が漏れる。



これで一安心だな。

池田を討ち取ったことで、日賀野の情報網の媒体が一つ消える。

少しは向こうにダメージを与える結果になったんじゃないかな。


ヨウも肩の力を抜き、池田から視線を外して仲間の安否を確認。


シズ達も喧嘩を終えているようで、無事を目にしてホッと息をついている。


俺が片手を挙げると、向こうも同じ事をしてくれた。


その表情には確かな笑みが浮かんでいる。


しかし次の瞬間、俺は血相を変えることになった。

倒れた筈の池田がブレザーのポケットに手を突っ込んでまた、折り畳み式果物ナイフを取り出していた。


予備を持っていたらしく、素早く立ち上がるや否や血走った目でヨウに狙いを定めた。


咆哮に近い雄叫びを上げ、身を捨ててヨウの懐に入った。


ヨウも予想外だったのか、受け身さえ取れない状態だった。


あれじゃ、確実に急所っ、胸をやられる!




ドン――池田の体が横に飛ぶ。



予想外の事態に誰もが眼を開いた。

池田の身に捨て身でタックルを仕掛けたのはモトだった。

誰よりも早く、ヨウの危険を察知したんだろう。タッチの差でヨウは危機を回避し、モトは池田と共に地面に転がる。


忌々しいと吠える池田の理性は怒りで我を忘れていた。


不意を突かれても放さなかった果物ナイフを握り締め、揉み合いになる前にそれを容赦なく振り下ろす。


モトの右肩にナイフが食い込む。


悲鳴すら上げられないモトにもう一度、果物ナイフの刃が。今度は胸部に食い込む。



うそ……だろ。