◇
「うぇええ……ケイ。アンタ、ほんと荒運転だって。オレ、死ぬかと思ったし。胃と心臓が死んでるんだけど」
「いやいやいやモトさんよ。不良の団体様に追われる方がよっぽど恐いだろ。やばいだろ。死ぬだろ。俺、マジ死ぬかと」
ぐったりと背中に凭れ掛かってくるモトに対し、はぁーっと俺は大きく息をついて疲労を吐き出す。
疲れた。この一言に限る。
あれから本当に大変だったんだ。
オトリになると決意した俺達は路上に転がっている使われていそうにない自転車をかっぱらい(これって窃盗だよな……?)、わざと不良達に見つかるよう行動を起こし、後はひたすら逃げ続けた。
どこまでも追って下さる不良達を撒くために自転車をびゅんびゅん漕いで漕いでこいで。
途中で不意を突くように追って来る不良様達に自転車で突っ込んで動揺させたから、追っ手の人数はだいぶん減らせたと思う。
更に警察署前を通ることにより、不良の数人は勤務中の警官に捕まって尋問を受けていた。
ザマァだと余裕をぶっこいていた俺とモトだけど、その警官の眼が俺達に向いた時は危機を感じたよ。
だってどう見ても俺達は追い駆けている不良と関係がありそうな人間に見えるし、自転車は二人乗りをしている。
二人乗りは法律違反なんだぜ?
交通違反なんだぜ?
ついでに俺の後ろに乗っけているのは不良なんだぜ?
警官に声を掛けられる前にトンズラしたよ。
まじで捕まるかと思った。
フルボッコも怖いけど、警察沙汰になって学校や親に一報を送られるのも怖いじゃん?
俺、大人を交えた面倒事は起こしたくない主義なんだ。
ホッと息をついて周囲を見渡す。状況に顔を引き攣らせた。
ゲッ、なんだよ。
見るからに戦闘中だって空気が醸し出されているんだけど!
終わっていないじゃんかよ、リーダー!
俺はてっきり終わっていると思って乗り込んできたのに。
まさに喧嘩の真っ最中?! リーダーの首はまだ討ち取ってな……パキ―。
パキ?
あれ今、パキッて聞こえたような。
恐る恐る自転車を動かす。
あじゃぱー……見事に車輪の下に誰かの携帯が。
スライド式のガラケーの画面に軽くヒビが入っている。
俺達の体重に耐えかねたのか、はたまた下が砂利の絨毯だからなのか。なんでこんなところに携帯が落ちているんだよ。
も、もしかして俺が修理代を出さなきゃいけない感じ?
「あっれぇどなた様の携帯? ヒビ入れちゃったんだけど」
あの、不可抗力ではあるのですが、一応ごめんなさい。
手遊びをしつつ、冷汗を流しながら喧嘩をしいてるヨウ達に誰のものかを質問。
するとヨウがナイスだと大声で笑い始めた。
「さすがケイだ! お前ならヤラかしてくれると思ったよヒーロー!」
茶化される始末。
な、なんで笑われないといけないんだよ。
「ケイ、あいつのみたいだぜ。怒っているっぽい」
モトに指差されてギクリと肩を震わせる。
おずおず指先の向こうを確認すると、確かにものすごい形相をしている一匹の不良さまが仁王立ちしていた。目が物語っている。弁償しろよ、と。
いやいやいやちょっと待って! これは事故だろ? 俺のせいじゃないだろ? 此処に置いていたあんたが悪いんだろ?!



