「ッ、アブネッ!」
気を取られている隙に刃物が目と鼻の先。
辛うじて避けたが右頬に一筋の赤線ができる。小さな痛みを感じる間もなく、相手が足払いしてきた。
「ツッ!」
その場に尻餅つくヨウの隙を突いて、ナイフが振り下ろされた。
どうにか相手の手首を掴んでナイフを寸止めすると、腹部を蹴って押し返す。
相手が態勢を崩す間、ヨウは態勢を立て直すことに成功した。砂利で汚れた頬を拭うと軽い痛みが走る。
そういえば頬を切られたんだっけ。
忘れていた痛みを感じながら、ヨウは相手を見据えた。あのナイフが邪魔だな。
あれさえなければ、もっとスムーズに近付けるのだが。
応援を呼びたいが生憎、皆、手一杯のようだ。
タコ沢の言うとおり、池田の回りの不良は腕が良いらしい。
キヨタでさえ、ひとりの不良に苦戦を強いられている。
どうやら相手も何か空手か柔道を習っていたらしい。
よくよく見ると、向こうの相手の手にも凶器らしき物が垣間見える。
クソッ、凶器所持なんて卑怯もいいところだ。ヨウは奥歯を噛み締めた。
「応援を呼べ」
向こうには手の空いている不良がいるらしい(舐められたものだ!)。応援を呼ぶよう池田が命を下した。
この状況でまだ、人を呼ぶというのか。冗談ではない。呼ばれたら最後、自分達は圧倒的不利に追いやられる。
どうする、どうすればいい。落ち着いて考えろ。
忙しなく舌打ちを鳴らし、ヨウは手頃の石を拾うと携帯を取り出す不良に向かって投げた。石は不良の手に直撃。携帯がその場に落ちた。
「よし」
ヨウは携帯を奪うため、地を蹴って駆け出した。応援だけは絶対にごめんなのだ。
が。
前方に池田が回ってきた。
力はないくせして、足だけは本当に速い奴だ。忌々しく池田を睨むヨウに対し、池田は早く携帯を拾うよう怒号を上げる。
敵方の不良は頷き、手を擦りながら携帯を目で探す。
少し離れた場所に携帯を見つけ、それを取りに行く。
不味い、ヨウが戦慄を覚えた直後のことである。
「ケイケイケイケイケィイイイイイイイッ、死ぬってぇええええ!」
「ちょっとブレーキが壊れ気味なだけだって! はいはいはーい! 轢かれたくなかったら、退いてくれよなー!」
聞きなれた声音に悲鳴、自転車のブレーキ音。
弾かれたように顔を上げれば、猛スピードで駐車場に飛び込んでくる見慣れない自転車一台。
二人乗りしている見慣れた人物達に、ヨウは思わず頬を崩す。
キキィイ――。
甲高いブレーキ音を鳴らしながら飛び込んできたのは、追われていた筈のケイとモトだった。



