すぐさま応戦に行きたいが、ヨウはグッと出しゃばる気持ちを引き戻した。


自分の目的はあくまで向こうのチームの頭を討ち取ること。応戦すれば失敗するかもしれない。失敗がなくとも、喧嘩が長引く。

なるべく早く事を済ませたい。

こちらは人数が少ないのだ。


スタミナの差で敗北する可能性だってある。


頃合を見計らい、「行くぞ」ヨウはキヨタに声を掛ける。


「うっす」


返事を返すキヨタを確認した後、ヨウは裏側から駐車場へと飛び込んだ。

待機していた二人の不良が自分達に気付く。

「邦一さん!」

頭に報告する不良二人。まだいたのかと池田は舌打ちを鳴らした。


「ヨウさん! 此処は俺っちが相手するっス! ヨウさんは大将を討ち取ってくださいッス!」


言うや否や、キヨタは自分よりも体の大きい不良二人の内、ひとりの鳩尾に拳を入れた。裏拳でもう一人の不良の顔面を叩く。

さすがは合気道を習っていただけあって強さは桁外れだ。

まず動きが自分達とは違う。動きが滑らかだ。


(有り難い奴を引き連れてきたな)


ヨウはモトに感謝しつつ大将である池田の前に立った。

「よくも喧嘩振ってきやがったな」

この借りはデケェぞ、悪態を付くヨウに池田は憮然と肩を竦め、ボンネットから飛び下りた。

刹那、ブレザーのポケットから折り畳み式の果物ナイフ。


ヨウはギョッと驚き、なんのジョークだと相手を見やる……池田の眼は据わっていた。奴はヤル気だ。


「おいマジかよ。いつから喧嘩が殺し合いに変わったんだ。頭おかしいんじゃねえか?」


眉根を寄せる間もなく、池田は掛かってきた。


「クソっ」


ヨウは舌を鳴らす。

喧嘩には強くても、こういった凶器を出されては迂闊に手が出せない。


おまけに向こうは素早いと来た。

喧嘩は強くないようだが瞬発力はあるらしい。避けることで手一杯だ。


今までの喧嘩経験上、こういった殺し合いまがいの喧嘩は経験がない。


だからこそ恐怖心を抱くし、混乱もする。


しかし、だからといってシズ達に頼りたくはなかった。


こいつを仲間には近付けたくない。凶器によって向こうが怪我をするかもしれないから。


紙一重に避けながら、片隅でシズ達を気遣っていると、「イッデェ!」キヨタの悲鳴が聞こえた。


まさかヤラれたのか、慌てて視線を向ける。


どうやら相手から小石を投げられたらしく(駐車場は砂利なのだ)、軽く腕を擦っている。


石は卑怯だと愚痴るキヨタに、まったくもってそのとおりだと共感した。