「ええええっ、そ、それどういうことだよ、モト!」



突然、静かな空気に響き渡る絶叫。 

キヨタの声に何事だと一同が注目する。

モトの帰りをそわそわと待ちつつ周辺をうろついていたキヨタは、携帯を耳に当てて何やら焦っている様子。


「大丈夫なのかよ!」


悲鳴に混じった声音にヨウは眉根を寄せた。

木材から飛び下りると脇目も振らず、キヨタに駆ける。


何があったのだと問う。

キヨタが携帯機から耳を外し、大変だと早口で説明を始めた。


「モトが不良に追われていると言っているっス。しかも池田チームの回し者っぽくて……人数が多いみたいっス」

「モトが……」


大事な弟分がピンチに陥っているのだと聞き、ヨウはキヨタから携帯を取って向こうに話し掛ける。


「今何処にいる?」


ヨウの質問に、『交差点前の大通りです』機器向こうのモトが答えた。


声に緊迫感がある。

事態は芳しくないらしい。


今すぐ応援を送らなければ……ヨウはシズとワタルにバイクを出すよう言う。

移動できるよう常にたむろ場に止めているのだ。


しかしモトが応援はいらないと意見した。


何を馬鹿なことを言っているのだ、捕まればどんな目に遭うと思っているのだ。


モトがそれなりに喧嘩ができたとしても大勢相手では勝ち目がない。

身を隠せるような場所に避難しておけと命令するが、モトは『えーっと……』と言葉を濁すだけ。

何か意見をしたいのだろうが、肝心な時に何も言えないのはモトが自分を尊敬しているからだろう。


「モト!」怒声を張れば、『はいです!』素っ頓狂な声を出した。



『えーっとそれじゃ応援……いやいやいやそれじゃ駄目だろ! ……え? 何だよケイ。は? ヨウさんと話したい? だってアンタ、運転っ、分かった分かった! ヨウさん、ケイと代わります!』


「ケイと一緒にいるのか? って、あ、おい」



『はいはーい。ヨウ、俺です。追われている身の上なので単調直入に用件のみお伝えします……ヨウ、池田チームから喧嘩を吹っ掛けられた。
結構な人数がこっちに来ている。チーム本体の手が薄い。潰すなら今だ。リーダーを討ち取って来い。俺とモトで下っ端の相手を頑張ってみるからさ』



「なッ、無茶言うんじゃねえ! んなの無理に」


『無茶でもやるしかないだろうよ! ヨウ、俺達の目的は何だ? 俺達、さっき日賀野に会っちまったよ。日賀野は俺達を潰すために、あらゆる手を使ってくる魂胆だ。

それを阻止するだけじゃ俺等は勝てねぇよ。
受け身だけじゃ無理だってことだ。

おっと、モト、曲がるぜ……悪い悪い。話を続けるけどさ、ヨウ、俺とモトを信じてくれよ。俺等を心配するなら池田を討ち取ってきてくれよ。大丈夫、俺達、この危機を乗り切ってお前のところに戻ってくるから』


「ケイ……けど」



『けどなんて言ってヘタレるなリーダー! 俺はお前の“足”なんだぜ? 逃げ足だけはピカイチだ。今だってチャリをかっぱらって逃げている最中だし、モトはお前ご自慢の弟分だ。ヤラれるわけねぇだろ。

状況を見ろ、ヨウ。
お前がすべきことは何だ? このまま日賀野にいいようにされていいのかよ。

俺等、強くはないけど弱くもない。信じてくれ、無事に戻って来るから。

事を済ませたら、池田のたむろってる場所に向かうから――俺達が戻った時には頭(かしら)を討ち取っていてくれよ。期待しているぜ。リーダー』



『モト、携帯仕舞え。超荒運転いくぞ!』ケイの怒声にモトの返事が聞こえ、『後で会いましょう』丁寧にモトが挨拶をして電話を切った。


「勝手なことばっか言いやがって」


ヨウは荒々しく後頭部を掻き、携帯を閉じる。

ポケットに携帯を捻り込む彼の瞳には強い意思が宿っていた。


「集合だ」


散っているメンバーに号令をかけ、ヨウはチームの頭として命ずる。


「響子とハジメは此処に残って俺達とケイ達の連絡を繋げとくようにしとけ。何かあったらすぐに連絡しろ。弥生、ココロ、てめぇ等は池田チーム以外の動きがないか探って来い

。残りは俺と池田チームを潰しに掛かる。
池田は商店街外れの駐車場でよくたむろってやがるらしい。奴等がケイとモトに喧嘩を振っているせいで、チームは手薄になってるみてぇだ。ヤマトと繋がっている、邪魔な池田を今ここで潰すぞ」