一方、ヨウ達がたむろってるスーパー近くの倉庫裏では。  


「遅い」


雨風に晒された薄汚い倉庫壁に背を預け、苛々と足踏みしている弥生はいつまで経っても戻って来ないケイを待っている最中(さなか)だった。


弥生は飲み物を買いに行ったケイが戻って来たら一番に励ますつもりでいた。


舎兄弟を解消されてしまったのだ。

表向きでは平然としていたが、内心では絶対に傷付いている。


水面下であれほど努力していたにも関わらず、その行為が報われなかったのだから。


けれど報われずとも努力を見ている人間もいる。自分もそのひとりだ。


戻って来たら、「これから巻き返そうよ!」応援しているから、と笑顔を送る気持ちでいた。


しかし彼はいつまで経っても帰って来ない。

ついでに彼の後を追うように飲み物を買いに出て行ったモトも戻って来ない。


二人で駄弁っているのだろうか。

舎弟について話しているのだろうか。


どちらにせよ、遅過ぎる。


弥生は元々湿気た空気が好きではない。


からっと乾いた、明るい空気を好む。

だからこそ今の空気を打破するために、傷付いたケイを励まそうとしているのに本人が戻って来ないのでは意味がない。


「ヨウのせいでケイが戻ってこないじゃんかー!」


ついに待ち切れなくなった弥生は、空気を悪くしたチームリーダーに憤りながら意見した。掴みかかる勢いである。


「解消しなくても良かったじゃん!」


文句垂れる弥生を、「まあまあ」ハジメは優しく宥めた。

ヨウにも考えがあるのだとリーダーを庇うが、弥生は解消された挙句、最下位発言をされたら誰だって傷付くと猛反論する。


「大体、ヨウから舎弟になれって話を切り出してきたのに、申し出た本人が舎兄弟解消だなんて勝手過ぎると思う。そうは思わないの? ハジメ!」

「え、あ、あははー……そうだね」


彼女の剣幕にハジメはたじろいだ。

弥生という少女は怒れると凄みがあるものだ。


冷汗を流し、救いの眼をヨウに投げる。

リーダーは積み重ねられた木材に腰掛け、立てた片膝の上で黙然と頬杖をついている。


険しい面持ちから察するに、舎兄弟について延々と思案しているのだろう。

こちらに視線が流れることはない。救済の手は期待できないようだ。

他の皆も思い思いの時間を過ごしているため、此方も期待はできない。


弥生に視線を戻す。

憤る彼女の相手は自分しかないようだ。


「そんなに怒らなくても」


当たり障りない言の葉をかけハジメが微苦笑してみせた。

ヨウの気持ちを酌んでやろう。彼だってチームのための決断だったのだから。


けれども弥生は不満げに鼻を鳴らすだけ。


「喧嘩だけ見てるところが気に食わないの」


静かな怒気が宿った言の葉をハジメにぶつけてくる。


「喧嘩だけ評価されるなら、私だってちっとも役立たない。だからその分、何かで補おうとしているのに……私は喧嘩ができる響子とは違う。非力な女の子だよ」

「弥生には情報の面で期待しているよ」


「ならケイだって喧嘩以外の面で期待してあげてもいいじゃん! おかしいよ、手腕があるなしだけで評価されるなんて。それに私、身近に喧嘩ができなくて悩んでいる馬鹿を知っているもん。こんなの、絶対にヤなの」


真っ直ぐ弥生に見つめられ、ハジメは不意を突かれた。

そして一層苦々しく笑う。

悩んでいる馬鹿、誰のことなのか容易に理解できてしまった。


「大丈夫だよ」


ハジメは根拠のない言葉を口にする。


きっと大丈夫、ヨウにはヨウの考えがある。

無意味に傷付けるような発言をする奴ではない。


だから大丈夫、きっと大丈夫なのだ。