真顔だったモトの表情が、微かに緩和する。


 
「オレはアンタを信じると決めたんだから。一方的なんてムナイじゃんかよ」

 

もう駄目である。

俺の中でビックバンが起きた。感情が爆ぜた。 


小刻みに体を震わせている俺に、


「ケイ?」


どうしたのだとモトが声を掛けてくる。どうしたもこうしたもすったもんだもないっつーの! うわぁああっ、モトのイケメソ!

俺が女なら勢い余って告白しているところだバカヤロウ! なんならお前の信者になってもいいよ畜生!


「モトにハートを盗まれた。お前は平成のルパンかよ!」


感涙する俺はグズグズとポケットティッシュを取り出して、涙と鼻水を拭う。

汚い? 雰囲気ぶち壊し? どうとでも言うが良い。俺は今、猛烈に感動している。


「モト……ティッシュねえ? 切れそう」

「あー、待てよ。ティッシュは……これは財布だろ。ガムに飴。胸ポケットには生徒手帳。ない」


なら仕方がない。残りのティッシュで凌ごう。



――仲間。ヨウ達の仲間か。



モトに言われて、自分の隠れた感情に気付いたような気がする。

そう、モトの言うとおり、俺は心の片隅で思っていた。俺は皆の仲間じゃない、と。


「俺は、ヨウ達にとって繋がりでしかない。仲間じゃない。友達でしかない……そう思っていた。いや、思っている。今も」


「なんでそんなことを思うんだよ。アンタ……率先して動いているくせに。自分、ヨウさんのことを信じているんだろ? なんでオレ達を信じられないんだよ」


「違う。モト達を信じられないんじゃない。俺は、俺自身が信じられないんだ。弱いから。お前言ったよな、敗北を味わっていたって……俺もだよ。俺もいつも味わっている」


仲間と呼んでくれる男に対して力なく笑って見せた。 


「今まで喧嘩を避けてきたんだ。弱くて当たり前だと思う。でもいざという時に何もできないなんて、やっぱり悔しいよ。足手纏いだなんて言われたくもない。

だからこそ、一人で無茶しようとしてたのかもしんねぇ。恐いくせにさ。
俺はカッコをつけるためにオトリになろうとしてたんじゃない。喧嘩じゃない何かで皆と対等になろうとしていたんだ。きっとさ」


赤裸々に胸の内を告白すると、


「なんだ。オレと一緒じゃんか」


微苦笑を零すモトが視界に飛び込んでくる。

うん、今なら分かるよ。

モトは喧嘩で皆と対等になろうと、何よりヨウに認めてもらおうとしていたんだよな。


俺達はおんなじだ。

対等になろうとしていた形が違うだけで、求めるものは一緒だった……俺もやっとモトという人間を本当の意味で認められそうだ。今なら素直に仲間だと言える。


「モト。肩、やべぇかも。ひとりじゃ無理っぽい」


言えるから、モトというチームメートに頼ってみよう。

モトならきっと俺の申し出を受け入れてくれる。


「当たり前だろ?」

ひとりでなんでもできる人間じゃないくせに。

皮肉ってくるモトがオトリは二人だからな、と拳を出してきた。その拳を自身の拳で叩き、俺達は頬を崩す。


「言っとくけど、逃げる時の俺のチャリって荒運転そのものだからな。振り落とされるなよ」

「上等だし。やってやろうじゃんかよ。見返してやろうぜ」


本当にそうだ。

日賀野に振り回されてバッカの俺等だけど、今度は俺等が見返してやる番だ。

反撃ってヤツ? 振り回されるバッカじゃ癪だしな。