苦笑いをひとつ零し、


「チャリだったら負けねぇから」


真の舎弟になりたかったら、チャリで俺を認めさせるんだな。


素っ気無くモトに宣戦布告しておくことにする。


意地くらいは見せないとな。旧舎弟の意地って奴をさ。


静寂が訪れる。

これ以上、会話することもないと悟った俺は踵返した。


「先にたむろ場に戻るからな」


一言声を掛けて、足を踏み出す。

しっかり腕を掴まれ、それは叶わなくなった。


「モト?」


訝しげに視線を送ると、掻っ攫うように手中のペットボトルを奪われた。そのままボトルを傾けて半分ほど一気飲みされる。


お、俺のアクエリ……半分以上無くなってらぁ。金返せよ。


ショックを受けている俺を余所に、取り纏わせていた怒気を霧散させ、モトはどこか晴れた顔を作る。


「アンタ。意外と器でかいな。何だかんだで周囲に認められる理由も、少し分かる気がする。アンタはワタルさんにも、響子さんにも、弥生にも……他の皆にも……ヨウさん自身にも認められている。ちっさいことに囚われてたのは、オレなのかもな」


「モト?」


「ヨウさん尊敬するあまりに、周りが、それこそヨウさん自身が見えてなかったんだな。オレ。どっかでヨウさんを信じられなかった。なっさけねぇな、オレ! あーヤになるぜ!」


口元を手の甲で拭うとペットボトルを押し返してきた。

俺のアクエリ……ちっとしか飲んでいないのに。

三点リーダーを頭上に浮かべて恨めしい気持ちを噛み締めていると、「ケイ」モトが一笑を零した。稀に見る純粋な笑顔だ。



「キヨタ、ああ言ってるけど、オレ、アン「ほぉー。プレインボーイ、舎弟下ろされたのか?」




ギクッ!

こ、こ、こ、この呼び名は。

俺のトラウマ魂が揺さぶられる。


全身から汗を噴き出す俺に対し、モトはまさか……と、ぎこちなく振り返った。


民家の塀に腰掛けてガムを噛んでいる青メッシュ不良に俺は大泣きしたくなる。また出たよぉおおおお!


日賀野大和! 俺のトラウマ! 俺を執拗に舎弟に勧誘し来る最低不良さま! ジャイアン日賀野!


どっから現れたんだよ、あんた! 神出鬼没もいいところだって!


ブルッと身震いする俺は此処が自販機前だと思い出し、もっと身震い。


やばい、本気で体が震えてきた。

俺が以前、日賀野にフルボッコされた場所って自販機前だったんだよ。あの時の思い出が鮮明に蘇ってくる。



嗚呼チクショウ、これを日賀野不良症候群と名付けよう! なんて……馬鹿なこと思っている場合じゃない。