モトは俺の反応が気に食わないのか。舎兄弟に頓着を見せない、その様が気に食わなくてしょうがないのか。


弟分の自分を差し置いて舎弟になったくせに、あっという間に座を下ろされた。


しかも悲しむことも悔しがる様子も見せない。


お前の舎兄弟はその程度だったのかと憤怒しているんだな、モトは。


「俺はモトとは違うからな。ヨウへの憧れとか、そういうのはないし。凄い奴だとは思うけど、それだけだ」


今にも爆ぜそうな空気を放つヨウの弟分に、


「お前も知っているように俺には手腕なんてない」


今まで喧嘩に無縁だったんだ。

不良の舎弟を受け持つなんて荷が重すぎたのかもな。赤裸々に自分の感情を吐露する。


「だから当然のように受け入れるのかよ!」


食い下がるモトに、「だからだよ」強く主張した。


「あいつは苦悩している。ヨウだって完璧じゃないんだよ」


そら舎兄弟を白紙にされたことは悔しいよ。

だって白紙ってことは俺が弱いって証明しているようなもんだから。 


けどさ、問題はそこじゃない。

ヨウは舎兄弟の前に、俺達のリーダーだ。チームを引っ張っていかなきゃなんないんだ。


なにより俺の友人なんだ。

馬鹿みたいに苦悩していることを知っていて、舎兄弟白紙に癇癪を起すなんてお門違いもいいところだろう? 


ヨウは何事にも背負い過ぎちまう、完全なようで不完全な直球型不良。

なんでも器用に物事を解決できるほど出来た男じゃないんだよ。


俺とヨウが舎兄弟じゃなくなったとしても、それまでだ。

俺達は何も終わらない。終われないだろ? 絶交するわけでもあるまいし。


今、最重視することは関係性じゃない。

あいつの苦悩を理解してやることだ。あいつ自身を理解してやることなんだよ。


「モト、お前だってそうだろ? 尊敬しているヨウが仮にお前の舎兄になっても、ならなくても今の関係は崩れない。
そう思わないか? あいつ、舎兄弟だからって贔屓目することもねぇし。贔屓目にしていたらチームのリーダーなんかに選ばれないよ」


モトから視線を外し、アクエリの入ったペットボトルを傾ける。

容器の中で気泡が生まれ、瞬く間に消えた。


「ヨウとは成り行きで舎兄弟になった。あいつ自身の思いつきに嘆いたこともあったけど、俺はヨウに幾度も助けられた。気の合う奴だとも思った。
だから、あいつの助けになりたい。最後まであいつを信じてついて行きたいんだ」


ペットボトルを見つめる。半透明の液体越しに屈折する日射が眩しい。


「ま、舎弟を本当に下ろされる日が来たら、その時は新舎弟と一戦交えようと思う。旧舎弟の意地を見せてさ。ああ、喧嘩じゃなくてチャリでな。俺、喧嘩は無理だから」