「えーっとアクエリは150円ね。小銭、小銭、っと」


自販機の前に立った俺はポケットから財布を取り出して小銭を確かめる。


あ、小銭がねぇや。

札で出すしかないか。あんまり札は使いたくないんだけどな。


愚痴りながら札を出して投入口に入れる。

目を付けていたアクエリを選んで、ペットボトルが落ちてくるのを待つ。


ドン、落下物の衝撃音が聞こえてたことを確かめてペットボトルを取り出した。早速、蓋を開けて喉を潤す。


「解消、か」


舎兄弟解消……ヨウと関係は変わらないとはいえ変な感じだな。舎兄弟解消だなんて。


早期だったら俺も涙を流して喜んでいただろうけど、今は変な感じ。

荒川の舎弟と呼ばれることが普通だったからかな。意外に舎弟という肩書きに愛着があったりしてな。

ま、これで暫くは舎弟という重たい荷がおりた。

仮に最終選考で俺が選ばれなくとも、舎弟の肩書きに悩まされる心配はなくなる。


そこはメリットでもあるよ。

荒川の名の重さを知っているだけに、余計なプレッシャーに悩まされずに済む。


脳裏にヨウの謝罪する姿が浮かんだ。

人知れず頬を崩し、目を伏せる。変な気を回しなくてもいい。

関係が変わろうと俺は最後までヨウについて行くつもりなのだから。



バチンッ――背中を思い切り叩かれた。



乾いた音が空に舞い上がり、俺の悲鳴も天に吸い込まれる。

いってぇ、誰だよ。加減しろって。


ひりつく背中の痛みに呻いていると、俺の隣に犯人が立った。


毛先まで見事に染まっている、その金髪。

羨望を抱いている不良と同じ髪の色を持つ不良は一点の曇りもなく俺を見据えてくる。勝気を宿した眼に躊躇いを覚えた。


何しにきたんだ、モトの奴。

自販機に目もくれず、眉間に皺を寄せている中坊に首を傾げる。


その様は怒気を纏っているようにすら見えた。

何を怒っているんだ? 親友に最有力候補の座を取られたからか?


「なんで平然としているんだよ」


平然……平気そうに見えるか?


「馬鹿、平然としてねぇって。背中痛ぇよ。加減して叩けよな」


本気で叩いてきただろ? 生憎SMの趣味はないんだけど。

冷たく返すと、「ちげぇし!」そういう平然じゃないと怒声を張ってくるモトがそこにはいた。きょとんと相手を観察する。

反応できない俺に、


「そういう余裕あるところがムカつくんだよ」


モトが容赦なく毒づいてくる。

ワケが分からない。モトは一体全体、何に腹を立てているんだ? 



「アンタ、ヨウさんの舎弟じゃなくなったんだぞ? 当然のように最下位だったんだぞ? なのに、なんで当たり前のように受け入れているんだよ! それとも何か? 最後は自分が選ばれるコネでもあんのかよ!」


一々目くじらを立てるモト。

頬を掻いて状況を脳内で整理してみる。

何度整理しても、辿り着く答えは八つ当たりの一点。


「べつにコネなんてないよ」


ヨウの中間発表も、舎兄弟白紙も、あいつ自身が決めたことだ。俺は何も聞かされていない。


有りの儘に旨を伝えるけど、「そうじゃない!」モトの気はおさまりそうにない。


じゃあ、どういうことだよ。


「こっちはどれだけっ、どれだけヨウさんに憧れを抱いていたと思うんだよ。簡単に受け入れやがって」


吐き捨てられた言の葉を拾い、やっと合点することができた。