うぇーっと舌を出してブーイングをかます弥生をハジメが宥めた。
「まだ中間発表だって」
落ち着くよう促されても弥生は止まらない。
「十円はげができちゃえ」
ねちねちと地味に嫌な呪詛を唱えている。
「思った以上の反発だねぇ」
ヨウちゃんも大変だ。
ワタルさんが面白おかしそうに口角をつり上げる。
「そんだけケイも貢献してきたってことだ。努力が実ってんじゃねえか。こりゃ後輩も大変だなぁ」
響子さんも微笑を零して目尻を下げている。二人して意地の悪い反応だ。
「弱ったな」
ヨウが頭部を掻く。
これでも使わない頭を懸命に働かせたつもりなのだけれど、疲労の色を見せている舎兄……元舎兄に俺は苦笑いを零す。
「分かった、ヨウがそうしたいなら俺はそれに従うよ」
中間発表も受け入れると相手に伝える。
「で、でもケイだって」
庇ってくれる弥生に、
「ヨウだってチームを考えてのことだ」
意地悪をしているわけじゃないよ。ポンッと彼女の肩に手を置く。
物言いたげな表情を作る弥生に一笑し、「喉渇いたな」ちょっくら自販機にでも行って来よう。
妙に重くなる空気に耐えられなくなった俺は積み重ねられた木材から飛び下りて、さっさと自販機に向かう。
本当に喉も渇いていたしな。
確か倉庫付近に一台、自販機があった筈。
近くにスーパーもあるけど、自販機の方が断然近い。
「あ、ケイ……」
弥生の呼び止めは敢えて聞かないふりをしたけど、「悪い」ヨウの謝罪には足を止めた。振り返って俺は笑う。
「お前の出した決断だ。自信持てよ。舎弟問題でどうのこうのと悩んでいる暇はないだろ?」
「―ーああ。分かってる。サンキュ、ケイ」
力なく笑うヨウに俺も笑みを返し、今度こそ自販機に向かった。
な? ヨウ。
俺達、舎兄弟が終わっても、さして変わらないだろ? 変わりっこないんだ。だってさ、俺達、結局は友達って糸で繋がっているんだから。



