「舎弟問題は……どうなっている?」
ヨウは能天気に一笑して、まだ決め途中だって中間報告。
早く解決しろと呆れるシズを無視して、
「けど一つ決めたことがあんだ」
舎兄は俺に視線を送って、浮かべていた笑みを消した。
真顔になるヨウの醸し出される空気が妙に緊張しているのは気のせいだろうか?
「今この瞬間をもって、俺はケイと舎兄弟を解消する」
静まり返るたむろ場。
和気藹々としていた空気は殺伐とした味気のないものへと変化する。
その場にいたチームメートは呆気取られていた。
あのワタルさんでさえ目を真ん丸に見開き、言の葉を理解しようと努めている様子が窺える。
俺自身も驚き返っていたけれど、皆ほど驚愕は抱かなかった。どこかで察していたのかもしれない。
「本気か?」
逸早く我に返った俺の問いかけに、「ああ」これは思い付きじゃなく、少し前から考えていたことだとヨウ。
そうか、なら仕方がない。
微苦笑を崩す俺が首肯を示そうとした、その時、
「なん。で?」
意味が分からないと意見する人間が出てきた。俺を応援してくれていた弥生だ。
「ケイがどうして舎弟をリストラされないといけないの? 喧嘩ができないから? だから舎弟を解消なの? ねえ!」
まさか弥生が喧嘩腰になって庇ってくれるとは思わず、今度こそ俺は呆気とられてしまった。
「私は納得がいかない。舎兄弟を解消する理由を教えてよ。今すぐ」
眼光を鋭くする弥生の剣幕に押されることもなく、「今から説明すっから」ちっと落ち着け、ヨウが憮然と肩を竦めた。
曰く、解消に至った主な理由は公平に舎弟としての技量をみたいから、らしい。
舎弟問題が勃発しているんだ。
俺とヨウが舎兄弟のままだと、他の二人が不利だとヨウは感じたらしい。
基準を平等にして皆の技量を見定めたいと配慮した結果、舎兄弟解消をしたんだ。
後輩達のために俺と交わした“いけるところまでいく”という約束を破ってまで舎兄弟を解消するなんて。アイツらしい。
更にヨウは中間発表を報告した。
同じ目線で見た現時点で、舎弟に一番近い候補はキヨタだとリーダーは述べる。大きな要因はその手腕を高く買われているからだろう。
そりゃ合気道を使えるなら、舎弟として十分に使えるだろうしな。
次にモトだって。
これまた喧嘩の腕が買われていることが理由に挙げられた。
「やったじゃん、モト」
キヨタはモトの背中を叩いて喜びを露にしている。
頑張れば一番になれるかもしれないぞ、励ましを送るキヨタだけど、モトは複雑そうな顔を作って俺の方を見てきた。
どうしたんだ、そんな哀れむような顔でこっちを見て。嬉しいんじゃないか? 舎弟だった俺が最下位だったのに。変な奴だな。
「私は絶対に納得しない!」
結果報告を静聴していた弥生が怒声を上げる。
不満たらたらに、
「技量で見ている? 違うでしょ。喧嘩ができるかどうかを見定めているだけじゃん! それだけの理由で舎弟を選んでいるのなら、私は仮に舎弟が決まってもその舎弟を認めない」
何故なら力のみで見ているのだから。弥生はフンと鼻を鳴らす。
「私はケイに同情して反論しているんじゃない。ケイにだって充分な素質があるから反対しているんだよ。
ケイとは初対面だったにも関わらず助けられた。ハジメも助けてくれた。喧嘩ができないのに私達を助けてくれたんだよ。
なにより、チームのためにいっぱい働いていることを私は知っている。ヤマトのことだって、ケイはヨウを裏切らずに舎弟のままでいてくれた。
その気持ちは評価に値しないの? 喧嘩ができないの一点で評価するようなら、私はヨウの評価基準を軽蔑するんだけど。
大体ヨウがケイを舎弟にしたんでしょう! 責任を持って最後まで舎兄弟しなきゃ駄目じゃん! ヨウの馬鹿ちん! 阿呆! はげちゃえー!」



