「丸く収まるのはモトを舎弟にすることだろうな。キヨタはモトを推すために候補したようなもんだし」
助言にきょろっとヨウの眼球がこっちを向く。
「それで解決すっか? まず明確な理由がねぇだろ? 理由ねぇとモトだって納得しねぇし……それにケイ、テメェはいいのかよ」
そりゃ仮に俺以外の男を舎弟に選んだ日には“無理やり舎弟にしてリストラかよ!”なーんて不貞腐れる気持ちが生まれるだろう。
けれどそれ以上の気持ちも、以下の気持ちもない。
それがヨウの決定なら、俺は同意するし納得もする。
なにより、俺は喧嘩ができない足手纏いな男。チームの足を引っ張っている自覚は持っている。
「俺達の舎兄弟が終わるだけだよ」
答えを待っているヨウに微笑んだ。
若干不満げな面持ちを作っているイケメンは、「だけ。ね」意味深長に鼻を鳴らした。
そんな兄貴に問う。「終わっても変わらないだろ?」
「終わることで、お前と交わした約束は破られるだろうさ。
なら約束し直せばいい。舎兄弟じゃない俺達で。
前にも言ったけどさ、仮に舎兄弟が終わっても俺達は何も変わりやしないと思わないか? 舎弟じゃなくても俺はお前の足くらいにはなれるよ」
握り飯を食い終わったヨウがブランコの上に立ち、そのまま漕ぎ始める。
連なる鎖がギィギィと悲鳴を上げた。一定のリズムで鳴く鎖に耳を傾ける。
「ま、リストラされるなら、その前に舎弟の座を賭けて勝負くらいはしないとな。俺、これでもヨウの舎弟だから? 一度くらい舎弟の威厳を見せないとな。
ああ、喧嘩じゃなくてそこは“ヨウの足”としてチャリで勝負。喧嘩なんて瞬殺だもんな! やだぜ、俺、これ以上、病院に世話になるの!」
ギィ……ブランコを大きく揺らしているヨウは一笑した。つられて俺も一笑を零す。
「安心しろって、俺は最後までお前についていく。その言葉に嘘偽りはないよ。舎弟じゃなくなってもお前についていく。俺はヨウの舎弟だ。
舎弟じゃなくても、俺はヨウの友達だ。
変わんねぇよ、なあにもさ。
もう少し気を楽に考えてもいいと思うけどな。
なによりお前はチームのリーダー。舎弟問題でどうのこうの悩んでる暇、ないだろ? 俺達の目的は日賀野なんだから、お前はそっちでもっと悩まないと」
ヨウはブランコから飛び下りた。
断続的に聞こえてくるブランコの錆びれた軋み音が、静かな公園に響き渡る。
綺麗に着地して振り返ってくる舎兄の顔は、何処となく晴れていた。
「やっぱあれだな。舎弟ってのは、ケイみてぇヤツじゃなきゃいけねぇのかもしれねぇ」
「ヨウ?」
「俺はこうって決めたら一直線なんだ。何にしてもそう。喧嘩にしても、物事にしても……ケイに言われるまでヤマトのことなんて念頭にもなかった。
駄目だな、周りが見えてねぇ。
そういう時、気付かせてくれる奴が必要なんだって思う。
ケイと話して気付いた。舎弟ってのはそういうもんだよな。後継者以前に……ん、なんか答えが出てきそうだ」
迷いを宿していた眼に一筋の光を宿している。吹っ切れたみたいだな。