俺は担任の待つ職員室に行く際、ついて来てくれる利二に「無理しなくても良いからな」と言葉を掛けた。

仮に情報を知っていても無理に俺達に流さなくていい。立場が危なくなるのは利二なんだから。


すると利二は何を言っているんだとばかりに笑った。


「聞いた情報を提供するだけだ。田山は心配性だな」

「心配性のお前にだけは言われたくない。ってか、いや、マジにさ。俺達に手を貸してることになるんだぞ。日賀野達にバレでもしたら」


「自分は荒川達に手を貸しているわけじゃない。お前に手を貸しているだけだ」


利二は肩を竦めて笑声を漏らし、俺に微笑を向けてきた。


「言っただろ、お前が不良になったとしても変わらず接してやるって。お前が舎弟を白紙にできなくなったとしても、日賀野達と対立するチームに属すことになったとしても、お前はお前だ。それくらいのカッコ付け、許されるだろ? ……って、おい、田山」


「ヂッグショウ。お前、ヒキョーだぞ! んな、友情見せつけやがっで!」


俺は感動のあまりに出た洟をティッシュでかむ。

も、言葉にアッツイ友情を感じたね。

地味が築き上げる友情ってマジ素晴らしいと思った。


グズグズと洟をかんでたらティッシュが無くなる。


「まだいるか?」


呆れたように利二が俺にポケットティッシュを突き出してきた。受け取った俺はそれでまた洟をかむ。


「不良にまみれた生活の中に見出した地味友情……俺、どんだけ普通が素晴らしいのか今ので分かったぞ。利二」

「そうだな……お前の生活環境には同情するものがある。しかしお前の場合は自ら危険に足を突っ込む悪い癖があるぞ」


……ご尤もデス。 

確かに自分から危険に足を突っ込んでいますね、俺。

だから俺、舎弟の件を白紙にすることができず、寧ろヨウに「俺はお前の舎弟だ!」言い切ったもんな。

誤魔化すように俺は頭を掻いて目を泳がせる。利二は微苦笑を漏らした。


「そんなお前だから、尚更手を貸したくなるんだろうな」

「利二……」


「不良グループもいいが、少しは元いるべき地味グループにも顔を出して欲しい。お前がいないおかげで、今の面子にはノリツッコミ役がいないんだ。疲れたら遠慮せず、こっちに少しは顔を出せ。少しは戻って来い」


利二は目尻を和らげて俺に言った。

居場所っつーのかな、そういうのをさり気なく利二は提供してくれる。嬉しさを隠すように俺は頭の後ろで手を組みながら笑った。


「利二、俺の舎弟になっちまうか? たまには不良とつるんでみるのも悪くないぞ? みんなに紹介してやるって」

「お前の舎弟は別にいいが、不良とつるむのはごめんだ。お前のようになりたくはない」

「ひっでぇーの」


「誰だってそう思う。……田山、左肩はどうだ? 全治約三週間なんだろ?」

「んー、まあな。どうにか大丈夫だ。自転車も普通に運転はできるしな。二人乗りもできなくはないし」


利二の歩調が早くなった。俺の前を歩く利二は足を止めて振り返って来る。


「何かあったら連絡しろ。無理だけはするな」


純粋に心配してくれるダチの言葉がこんなに嬉しいなんてな。足を止めて俺は微笑した。



「ああ、サンキュ。利二」




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