「あーあーあー。暇じゃい。暇じゃい。暇じゃいけん。暇じゃんけん。なんつって」


アキラは痛んだソファーに腰掛け、ぐわぁあと天井を仰ぎ、何度も暇と連呼していた。

そんな彼の口に、勢いよくチュッパが突っ込まれる。

ウグッと嘔吐(えず)くアキラは顔の位置を元に戻し、チュッパを口から出して大きく咳き込む。

胸を叩きながら、「なんじゃい!」素っ頓狂な声を上げてこれを突っ込んだ犯人にガンを飛ばす。

フフンと鼻を鳴らすその犯人は、爪を眺めながらソファーの背凭れに腰掛けた。


「だってアキラがあんまりにも『暇ひま』言ってるからさ。ボクの耳にタコができそうでできそうで。どう? 大した刺激になったでしょ?」

「とんだ刺激じゃい子。ホシ、あんまりじゃい」


「ごめ~んね」


ウィンクするホシは持ち前のピンク髪を弄り始める。

更に爪の表面に目を向け、「痛んでるぅ」さも悲しそうな声を出した。


「あーあ。だから素手で戦うのヤだったんだよぉ。やっだぁ、ボクの愛しの爪ちゃんが」

「お前は相変わらず乙女じゃのう。息子さんを取ったらどうじゃい?」


「やっだぁ、えっちい発言よしてくれる? ボク、体はいたいけな男の子なの」

「それは悪かったのう。乙女ホシちゃーん。それにしてもじゃ、暇じゃい。せぇーっかく今日、ヨウ達にあったけん、ひゃっほーいできると思ったんにぃ」


ぶすくれるアキラに、「文句はヤマトに言ってよぉ」ホシは大げさに肩を竦めた。


「じゃけん、言えんけんお前に言いよるんじゃ」


アキラはチュッパを舐めながら顔を顰める。

ヤマトに文句を垂れても、向こうはどこ吹く風。機会は山のようにある、とせせら笑うだけなのだ。

機会は山のようにあっても自分は今日、ヨウ達に手を下したかったのだが。今日の気分は今日でしか処理できないのだし。

嗚呼、今夜は美味しい機会を逃してしまった。残念過ぎる。ヨウも、シズも、響子も例の舎弟もいたのに! アキラは嘆いた。

「例の舎弟見たんだ?」

ホシは興味津々に尋ねる。


「噂どおり普通じゃい普通。なぁーんも目立つもんがないのう。じゃけども、ヤマト好みの奴じゃった。あの舎弟はノリが良いんじゃ」

「ヤマトは面白い奴大好きだからね」


「しかも情報によると、あの舎弟は自転車の腕が良くて、地域の裏道を熟知しているそうじゃ。喧嘩の面じゃ使えんが、ある意味危険人物じゃい。田山圭太っつー奴は」


「そっかなぁ?」

「目立たない奴ほど、何を持っているか分からんけんのうみそ。ヤマトも諦めてないんじゃないかんづめ」


「……その口調、うざいってアキラ。まあ、ボクとしてはシズ、そしてワタルらへんが危険なところだと思うよー? シズって常日頃から寝てるくせに、ここぞと時に本領を発揮する。ワタルは全体的に食えない一面を持ってる。アキラ、君と同じようにね」


意味あり気にホシは口角をつり上げた。

『ワタル』という名を耳にしたアキラは不気味に笑声を漏らした。


「確かにのう」


舐めていたチュッパを音を立てながら真っ二つに噛み砕く。


「ワタルほど食えない男、わしは知らん! ある意味、ヤマトより悪知恵が回っているからのう。あっはー! じゃから、自分の手で奴をぶっ潰したくなるんじゃい! のう、ワタル。お前もそれを望んでるんじゃろ? わしには分かる。

なにせ親友じゃったからなぁ、わし等は。どっちが上か、どっちが下か、あの分裂事件でどっちが正しいかそうでないか、そんなのわし等の中じゃどーでもいいんじゃい。

ただ潰したいだけじゃのう。
お互い似たり寄ったりの性格じゃけえ、きっとお前もそれを望んでる。わしには分かる。

敢えて言うなら、プライド勝負じゃな、これは。ま、どっちでもええ。互いに宣戦布告した以上は」



「何が何でも勝つ、だ」