殺気立った二つのオーラがぶつかった。
その側で痛みに呻いている俺の心境。
泣きたい叫びたい恐い! 二人とも恐いっつーの! ほんと仲が悪いんだな。
話には聞いてたけど、こんなに仲が悪いとは思わなかった。
ピリピリと醸し出される雰囲気に通行人達が大袈裟に俺達を避けて歩く。
迷惑そうな顔はしているけど、誰も何も言わない。通行の邪魔だって注意しない。
此処にいるのは不良たちばかり。
関わるのはごめんだと思っているんだろうな。
チッ、ヨウはまた一つ舌打ちをすると他の不良たちに目を向けた。
どっちも知り合い、つまり中学時代の仲間らしい。眉間によっている皺が深くなった。
「アキラに帆奈美(ほなみ)……たく、どいつもこいつも腹立つ面子だ」
焦げ茶の髪を持つ不良の名前は帆奈美さんっていうらしい。
不良にしてはワリと地味だけど、纏うオーラが大人を漂わせていた。
耳に付いているピアスが一層それを引き立てる。
「酷いご挨拶」
帆奈美さんがふてぶてしくヨウに言葉を返した。
「噂は兼ね兼ね。貴方のその拳だけで何事も解決できる考え、ちっとも変わっていない。愚か」
「姑息な手を使うお前等もどうかと思うがな」
「貴方のような男と寝た自分が信じられない」
「それはまたご挨拶だな。俺もだ」
寝た? それってヨウと帆奈美さんがセックスしたってことかよ。ってことは付き合ってたってことか。それともセフレ? 肉体関係?
どっちにしたって嘘だろ……中学時代にナニしてんのあんた達。アダルティな世界に足を踏み込み過ぎだろ。
イヤーンな世界に入り過ぎだろ。不良の世界は俺の想像を遥かに上回るって。
耳障りだとヨウは肩を竦めて俺に声を掛けてきた。
わざわざ荷物を持って来てくれたみたいだ。通学鞄を俺に差し出してくる。
「ありがと」
礼を言ってそれを受け取っていると、日賀野に笑いを含みながらこう言葉を掛けられた。
「まだそいつの舎弟でいるつもりか?」
ヨウは機嫌を最高に悪くした。
「まだンなこと狙ってたのか。テメェは」
「クズは黙っとけ」
「……おい、ケイ」
に、睨むなってヨウ!
俺はお前の舎弟やめるつもりないし(できたら白紙に戻したいんだけどさ)、向こうが勝手に舎弟がどうのこうのって言っているだけだぜ? 俺のせいじゃないぞ。これは。
それに答えは決まっている。
「俺はヨウの舎弟なんで。どう誘われようとお断りします」
しないと俺、確実に隣の方に殺されます。
目の前の不良に断るという行為もすんげぇ勇気がいるんだけどね! 断った瞬間殺されそう! だからか、俺、ちょっと逃げ腰。
「あーあーあ。勿体ねぇな、プレインボーイ。クズの舎弟なんざ。お前、オモシレェから舎弟にすりゃ退屈しねぇで済むのに」
あっれー、俺、確かヨウにも同じような理由で舎弟にされたような気がする。
確か面白いから舎弟にしてやると言われたような気が。
実はさ。根っこが似てるんじゃね? ヨウと日賀野って。性格は対照的だけど絶対思考は似てる筈。
何度目なのか、日賀野が俺に舎弟になるよう誘ってくる。
曰く俺はわりと使える……らしい。ナニに使えるのかスッゲェ知りたいところなんですが。
しかも『わりと』ってところが気になるんですが。なんで俺に拘るよ。そんなに面白いか、俺。
それとも……一見すりゃ不良でも何でもない地味な外見だから、色々と使える。とか? だろうな。そっちの方がしっくりくる。



