「やあ、透くん。利二くん。今日も元気そうだね。ぼかぁ嬉しいよ。
これからも、素敵学園生活をエンジョイしな。俺、陰ながら応援している。そう、陰ながら……陰ながら。日向化もしれねぇけど。俺は今日から日向デビュー。嬉しくねぇ」



俺はどういう学園生活になるんだろう、想像するだけで胃が断末魔を上げそう。

ズーンっと落ち込みながら、俺は自分の机に着席。

通学鞄を置くや否や、机上に伏して自分の不幸を嘆いた。


「なんで俺っ、俺なのっ、俺なんでしょう!」


荒川庸一さんよ、べつに俺じゃなくたって良かったじゃないですか。

兄弟になるならもっと素敵な人がいただろうに、なんで俺なの!

イケメンくんと地味くんじゃ大差があり過ぎて、俺の存在が霞むじゃあーりませんか!

なに、俺という名の地味を横に置くことで己を煌めかせるとか?

だったらふざけるんじゃねえぞこの野郎。

これだからイケメンという生き物は嫌味なんだ!


……いやそれ以前の問題か。どうしようかね、ほんと。

うーうー唸っていると、「田山」本当に大丈夫か、光喜が声を掛けてきてくれる。


「まさか苛めのターゲットになったのか? お前」


いえいえ、楽しく談笑しましたよ。苛められてはいません、今のところは。


「圭太くん。どうしたの? 冗談抜きに、その落ち込みようは尋常じゃないよ」


尋常じゃないでしょうね、そりゃそうでしょうね。

だって俺、あいつと兄弟になっちまったんだもんっ! あいつは兄貴、俺は弟……タメなのに兄弟になっちまったよ!


「田山。良ければ話してくれないか。笑い話にしたいんじゃない。純粋に心配しているんだ」


利二のイケメソ。フツーくんのクセにカッコイイこと言ってくれちゃって、惚れてまうやろ。

さっきとは打って変わって心配してきてくれる薄情者三人組に俺は、ちょっち感激していた。

それだけ俺の落ち込みようは凄まじかったってことだよな。


だけどさ、フツー落ち込むし、悩むだろ。

学校一恐ろしい荒川庸一の舎弟にされたんだぜ? 悩まない平々凡々日陰男子なんて、そうはいないぜ。


これに悩まない男子生徒は、よっぽどの能天気野郎かお気楽野郎、楽観主義者だって。


三人の心配は受け止められても、話す気分になれない俺に追い撃ちを掛けるように、


「ちょっと田山くん」


クラスメートのひとりから声を掛けられた。

顔を上げれば、めっさ恐い顔をして仁王立ちしている超真面目学級委員(♀)の姿が。



「田山くん。今日の朝清掃当番は貴方でしょ」


キリッと眉根をつり上げてくる。

彼女の名前は横野 梓(よこの あずさ)。


とても気の強い奴で、眼鏡越しに睨み付けてくる眼光の鋭さはこっちがビビッちまうほどだ。


横野は学年に一人はいそうな超真面目学級委員で、キッチリと校則や係りの仕事をしないと、またはクラスメートがそれを守らないと頭に血がのぼる口喧しい女子生徒。


当番の俺が朝清掃をしていないことに憤怒して、注意を促してきたようだ。


俺の学校には朝清掃というクソメンドクサイものが存在する。


朝のSHRが始まる十分前から清掃が始まるんだけど(簡単な教室や廊下掃除をする習慣があるんだ。当番はグループごと)、時間になっても動かない俺に横野はカチンときたらしい。


はいはい、やるって。

日陰男子っつーのは、こういう女子の言葉に従うしかないんだよな。


俺は腰を上げて掃除用具箱に向かう。


こうして俺は気鬱な気持ちを抱いたまま、朝清掃を開始。

当番じゃない薄情者三人組は、廊下掃除を始める俺に何があったのか、しきりに声を掛けてくるけど返せるの溜息ばかりだ。


どうしても話す気分になれない。

俺の気持ちが整理できていないのに、話せるわけないだろ。

掃除を終え、朝のSHRが始まる呼び鈴が鳴る。

学内に響き渡る呼び鈴に、のんびり廊下を歩いていた生徒達は駆け足で教室へ。

俺も掃除道具を片付けて自分の席に戻った。が、事件はこの直後に起きる。


「よっこらしょ」


ダルイ掃除を終えた俺が椅子に腰を下ろしたとほぼ同着に、