「そういやケイ。あんたどうしたんだ、左腕。上がってねぇみてぇだけど」


チャリを押し進める俺の姿を指摘してきたのは響子さん。

ハンドル握る手は右だけ、左はだらんと力なく垂れ下がっている。それに違和感を覚えたんだろう。


「あー……ちょっと」


俺が言うと同時にヨウが答える。「昼間、喧嘩してやられんだよ」


「さっき病院に連れてってたら、全治二、三週間だと。下手すりゃ一ヶ月は掛かるらしい」

「ヤマト達関連か?」


響子さん、鋭い!

そしてヨウが肯定しちゃうもんだから、俺の立場ないよ。


ワタルさんと収穫のない喧嘩は皆に報告する必要もないと話していたのに!

……まあ、舎兄を黙秘を続ける自信もなかったけどさ。あんなに怒られキレられて脅されたらなぁ。


欠伸を噛み締めながらぼんやりと歩くシズは、


「大丈夫だったか?」

俺の身を心配してきてくれた。

ちょっと感激したよ、嘘、だいぶん感激した!

心配してくれるシズに俺は大丈夫だと左肩を触りながら笑ってみせた。


「ヨウが病院に連れてってくれたしな。二、三日はチャリに乗るのも困難だろうけど、どうにかなるよ」

「ふぁ~……そうか……ならいい。けど、ヤマト達のことなら、後でちゃんと教えて欲しい」


教えて欲しいと言われても、収穫のない喧嘩だったんだけど。

日賀野達と直接関わったわけでもないんだけど。


それに半分以上はヨウに話しちまったしな。


魚住のことだけはまだ言っていないけど、それは言わなくてもいいと思っている。ワタルさんだって望んでない。


これだけは口が裂けても言えないよな。ワタルさんの意思が無い限り。


殆どヨウに話した。

そうシズに伝える前に、これまた舎兄が先に口を開いた。


「収穫がなかったとしても、直接関わらなかったとしても教えろ。ヤマト達のことはテメェやワタルだけの問題じゃねえんだ。俺達にだって関わってくる。テメェは俺達と関わってるんだ。分かってんのか、あ゛ーん?」


「イデッ、いでっ! 肝に銘じておきますっ!」


ドスドスと俺の頭を小突いてくるヨウに手を止めてくれるよう懇願した。

これでも重傷者なんだ、丁重に扱ってくれー! んでもって睨まないでくれっ、不良の眼光の鋭さっ、すんげぇ恐い!


「テメェは俺達と関わっている、ねぇ。ヤマトのことさえ教えなかった馬鹿舎兄はどこの誰だか」


容赦ない響子さんの言葉にヨウはうるせぇ、と舌打ち。

「そんな過去のこと忘れた」

都合の良い言い訳を述べているヨウに、「なんて舎兄だ」響子さんは心底呆れていた。


俺もヨウにツッコミたいけど、勇者じゃねえもん! 地味な平凡男子だもん! 不良にツッコミなんて命知らずなことできねぇー!


シズ、お前、欠伸バッカしてないで俺を助けてくれよ。

それか響子さんのお小言を止めてくれ。ヨウの機嫌の温度がどんどん下がっているから! ……何も言えない俺が一番情けねぇ。