「残念だったなケイ。俺の勝ちだ。全部白状しちまえ」

「説明も何も、さっきの説明とお前の言葉ですべて白状したつもりなんだけど」

「だったらあの生徒会長との意味ありげな会話は何だ?」

「あれはー……」


『“おサボリ”お疲れさま。怪我の治療は早めに。特に田山くん、左肩、お大事に。今日中に病院に診せた方が君のためだ』


会長の言葉が脳裏に過ぎる。


俺は身震いをした。

忘れていた悪寒が今になって戻ってくる。

なんでアノ人は俺が怪我したと知っているんだ。

俺達の喧嘩を一部始終見ていたわけじゃあるまいし。


自然と左肩に手が伸びた。

ゆっくり怪我した箇所を擦りながら思案に耽る。


アノ人は何者なんだろう。味方じゃないのは確かなんだけどな。


「あいつ、疑いがありそうか?」


口を閉ざした俺に対して、ヨウは物静かに質問をぶつけてきた。

ヨウも疑っているんだろうな。須垣先輩が日賀野達と何か関係しているんじゃないかって。


俺は首を左右に振った。「俺もよく分かんね」


「ただ……会長は俺が怪我負ったことを知っていた。この怪我はワタルさんと、喧嘩した不良先輩しか知らないのに」

「見ていた、わけ、ねぇな。誰かに監視させてたか、それとも情報を伝達してもらったか。なんにせよ、あいつは危険視しとかなきゃイケねぇってことか」


ヨウは立ち上がってアスレチック遊具の低めの柵に腰掛けた。

ポケットに手を突っ込んで思案するヨウの顔は険しい。


ふわっと吹く風にメッシュの入った髪を靡かせて、


「こっちも仕掛けてみっか」


不意に物騒なことを口にしてきた。

突然の言葉に俺は目を瞠る。ここでまさか、そんな言葉が出るなんて思わないじゃないか。


「仕掛けるって日賀野達に、喧嘩を?」


「喧嘩っつーよりも宣戦布告。あいつ等の“ちょっかい”にヤラれっぱなしなんざ、俺の気が済まねぇ。向こうがナニ企んでるか知らねぇが、このまま“ちょっかい”出されっぱなしなんざ真っ平ごめんだ」


惨めに敗北を味わうくらいなら、こっちから仕掛ける。

あいつ等にヤラれっぱなしなんて我慢なら無い。ヨウの言葉は決意の塊だった。


これはやる気だな。

ヨウ、日賀野達に喧嘩売っちまうな。


ってことは、俺はまた日賀野に会うかもしれないわけで。下手すりゃ一戦、いやそれ以上、日賀野やその仲間達とぶつかるわけで。恐い思い……するわけで。


だけど俺がどうこう言ってもヨウはやる気満々、止めたって無駄だと思う。

付き合いの短い俺が止めても、付き合いの長いワタルさん達が止めても、無駄だと思う。


付き合い短い方だけど、お前がそういう奴だってこと、俺、知っている。


だから俺は苦労するんだよな。

荒川庸一の舎弟ってのも楽じゃない。


「まずは相手を探るのも手じゃないか」


苦笑いを浮かべながら、俺はヨウに助言した。 


「なーんも知らないまま、真っ向から突っ込んでもダメだって俺は思うんだ。痛い目見るかもしれないし、勝ったとしてもこっちも痛手を負うかもしれない。
だったら、向こうの様子を探ってみるってのも手だって思う。相手を知って、真っ向から突っ込む・突っ込まないじゃ大違いだと思わないか?」


「ケイ……まさかテメェがそんなこと言うなんて。てっきり止めてくると思ったけどな」