身震いしながら、俺はこれでもかってくらいヨウに謝った。


だけど不機嫌そうに鼻を鳴らして、「聞き飽きた」詫びを突っ返される。

こりゃ相当、ヨウのご機嫌取りしないと俺の命が危ういぞ。


俺は右手を出して(左は上がらないんだ)、謝る代わりにお詫びとして俺のできることを提案する。 



「今度、ヨウの好きなモノ奢るから。一日、お前の好きなことに付き合ったりもするから。機嫌直してくれって。
あ、そうだ。俺、今からコーラでも買って来てやるよ! そんくらいなら奢れるぜ! んじゃ、いってきまッ、イテテテテ!」


「なーに逃げようとしてんだ、ケイ? 舎弟テメェは舎兄の俺に、まず、何をしねぇとイケねぇんだあーん?」



何をしないとイケない、そのナニは分かっています! 分かっていますけど、まず耳っ! 耳が千切れますっ、千切れちゃいますからヨウさん! 手を放してくれ!


ギリギリ右耳を抓まんで引っ張ってくるヨウの手の強さに喚いて、放してくれるよう何度も頼み込む。


やっと解放してくれた時には耳がヒリヒリ痛んでいた。

このヒリヒリ感が地味に痛い。地味な俺が言うのもなんだけど地味に痛い。


右耳を擦りながら俺は刺す視線に耐えていた。ヨウの目が訴えている。早く説明をしろ、と。


説明も何も、あれだもんな。

無意味な喧嘩をしてきたんだもんな、俺。

本当のことを最初っから最後まで報告しても、今さらだよな。


だから簡単に説明することにした。


「とある先輩不良たちのせいで、友達との仲が危機になった。
カッチーンきた俺は弱いくせに喧嘩を売りに出かけた。偶然俺達のやり取り現場を目撃したワタルさんは面白半分に喧嘩に参戦。そんなとこデス、兄貴」


嘘は言っていない、全部ほんとうのことだ。すべてのことを話してないだけで。


「さっき美術室に寄っただろ? あいつと不仲になりそうになった」


ヨウに視線をやれば、淡々とした説明にまったく納得していないヨウがそこにはいた。

立てた膝に肘ついてヨウは軽く溜息。


「そんだけじゃねえクセに」


図星を突いてきた。

なんで鋭いんだよ、いつもは俺の心情を全然察してくれない疎い奴なのに!

そんなに鋭かったら俺が舎弟になりたくないって気持ち、察してくれてたんじゃねえの?!

けどヨウは諦めたのか、俺にこう問い掛けてきた。


「どーせ収穫の無い喧嘩だったんだろ?」

「ん、収穫の無い喧嘩だっ……へ?」


「やっぱテメェ等、ヤマト達に関係する喧嘩してきやがったな。収穫の無い喧嘩は報告しねぇ、ワタルの考えそうなことだしな」


「え?」



「あー、何となく今回の経緯が見えてきた気がするぜ。そういうことか」



や っ ち ま っ た !



まさかあのヨウに、こんな頭脳プレイ(?)で白状させられるとは。


田山圭太、油断していたぜ!

……じゃなくて、やっちまったよ。俺のお馬鹿。今さら誤魔化したって後の祭りだろ、これ。


額に手を当てる俺に、してやったりとばかりにヨウが口角をつり上げてきた。