美術室を覗き込むと部員らしき男女が数人、キャンバスに絵の具を塗りたくっていた。


独特のニオイが何とも言えない。


俺は好きになれそうになれないな。



部員達が部活をしている中、ひとりだけ上の空になって窓の向こうの景色を見ている奴がいた。透だ。良かった、部活に来てた。


俺は部員のひとりに声を掛けて、透を呼んでもらうように頼んだ。


透は俺の登場に驚いていたみたいだけど、重たそうな腰を上げて、俺のもとに直ぐ来てくれた。


俺と傍にいるヨウの姿に、透はどっか決まり悪そうな顔を作っている。

そんな透を廊下に連れ出して、俺は取り戻した三冊のスケッチブックを差し出す。


「え……」


目を見開く透に俺は肩を竦めた。

ヨウは気遣ってくれてるのか、少し離れた場所で携帯を弄るフリして視界に入れないようにしてた。


「拾ったから届けに来た。これ、お前のだろ? 大事なモンなんだろ? 中の絵、一枚だけ汚れてるけど他は無事だから」

「拾ったって……でも、これ……これ……」 


上擦った声を出す透の手にスケッチブックを押し付ける。


「拾ったんだ」


繰り返しくりかえし伝えれば、透の目からボロッと涙が零れた。

ブレザーで目元を擦るけど、涙が止まらないのか次から次に涙が落ちていく。


「ありがと。ごめん」


蚊の鳴くような声で礼と詫びを口にしてくる透は、俺に何か言いたいみたいだけど何を言えばいいのか分からないみたいだ。


正直、何も言わなくていいって思っているんだ。俺は。

だから笑ってやる。