先輩不良の話はこうだった。


今日の昼休み。

たまたま誰もいなかった美術室で、煙草吸いながら駄弁っていたら透がやって来た。


丁度、先輩不良は仲間と一緒に生徒会室の話題を飛び交わせていたそうだ。


そう、察しはつくと思うけどこの先輩不良と仲間が生徒会室の窓ガラスにヒビを入れたんだ。


悪ふざけに石を投げていたら、窓ガラスに直撃したとか。


偶然、やって来た透がそれを耳にしてしまったもんだから、先輩不良と仲間は軽く透をボコした後、大切にしているスケッチブックを奪って脅したんだと。「喋ったら燃やす」と。


しかも透が一年だって分かると、不良で有名な一年の荒川庸一や貫名渉の名前を出して脅しまくったんだと。

告げ口したらタダじゃ済まされない。俺等はあいつの仲間だって。


更に美術部で使う絵筆とかキャンバスとか粘土とか、そういった備品を煙草の火で疵付けたらしい(前々から面白半分でそういう行為をしてたらしい。ゲスいな)。


だから透は俺を疑ったんだ。

俺もそういう輩の仲間で、美術部の備品を疵付けているんじゃないか。ああいった仲間と悪さをしているんじゃないか。てさ。



もしそうだったら、きっと生徒会に報告でもしよう、とか思ってたんじゃないかな。



透にとっちゃ、それは俺に対する裏切り……という言い方は変だけど、それに近いものを感じてたんだと思う。

じゃなきゃ「最低なことをしようとした」なんて普通、泣きながら言わないだろ。


(ま、疑いたくなるのも分かる気がする。俺、何だかんだで不良とつるんでいるしな)


ちょっとだけだけど透と距離を感じた。

不良とつるんでいるんだからしゃーない、それは分かっている。


でもやっぱ寂しいだろう、今までつるんできた地味友なんだから。

口には出さないけど、やっぱり寂しいもんだぜ。透も距離を感じたのかもな。


だからこそ、疑われちまったのかもしれない。前の俺だったら疑われることなんて100%大袈裟に言っていいほど無かっただろうから。

誰かとつるんで距離を縮めることもあれば、誰かと距離が離れていくこともある。

今日の出来事で痛いほど痛感した。疑われたことに腹立てばいいのか、悲しめばいいのか、わっけ分かんねぇや。


でも安心もしたんだ。

透は日賀野と関わっているわけじゃないって分かったんだからさ!


問題は、



「あの先輩不良。俺達の仲間とかほざいておきながら、俺達の仕業だって噂を流したって言っていましたね。ワタルさん」



チャリの後ろに乗っているワタルさんは気持ち良さそうに風を受けていた。

オレンジ色の髪が綺麗に靡いている。

困ったように笑うワタルさんは、軽く肩を竦めた。


「人気者はヤーんだよねぇ。こういった嫉妬の対象になるんだから」

「日賀野たちと何か関わり、あるんでしょうか?」


「さあー。こればっかりは僕ちゃーんも何とも言えない。それにしても楽ちんだねぇ。ヨウちゃーん、いっつもこんな楽ちんな思いしてるんだ」


そりゃチャリに乗っているだけなんだもんな。楽だろうさ。

代わりに俺は必死でペダルを漕いでいるよ! いいよな、乗ってるだけの人は。

俺は溜息をついてブレーキを掛けた。目の前にはスーパーマーケット。此処からは徒歩だ。スーパー近くの倉庫裏はチャリじゃ進めないんだ。


「もう着いたの?」


不満そうにワタルさんはチャリから降りる。

ここは普通、喜んでくれるところじゃないか?

そう思いながら俺はスーパーにチャリをとめて鍵を掛けた。


「もう授業が始まってるだろうな」


時間を確かめるためにポケットから携帯を取り出して画面を開いてみれば、着信が五件(弥生から二件、ハジメから一件、利二から二件) 。

新着メールが六件(弥生から三件、ハジメから一件、利二から一件、ヨウから1件) 。


「わぁーお。いっぱい着ちゃっている。しかも利二まで」


最近、利二も携帯を学校に持ってきているんだよな。


きっと俺のため、なんだろうな。あいつ心配性だから。

てか、あーキているよ、舎兄からのおメール。


今、最も恐れている不良さま! ……マジ恐くて中身が読めない。後で読もう。