ワタルさんは「ハロー」手を振ってはいたけど目がちっとも笑ってない。

彼もヤなんだな。須垣先輩に会ったこと。


俺達を満遍なく見た須垣先輩は、眼鏡のブリッジ部分を指で押した。


「もしかしてサボろうという雰囲気かな?」


あらヤッダァこの人、勘鋭すぎだわ! ……いや冗談抜きで鋭い、須垣先輩。

ワタルさんはピンポーンなんて自分から教えているしさ。

頼みますワタルさん、面倒事を増やさないで。


ただでさえ今から面倒事に巻き込まれようとしているのに。須垣先輩は呆れたように俺達を見据えた。


「態度で見せてくれるんじゃなかったのかい? 君たちの誠意とやらを。やはり君たちは信用ならない」


手厳しい言葉を向けてくる。


「どぞどぞ、ほざいておいて下さい」


ワタルさんはニヤついた笑みを浮かべながら反論した。

次の瞬間、ワタルさんは真顔になって垂れた前髪を掻き上げる。


「こっちもテメェのこと信用してねぇから。あいつ等と繋がりがあるかどうか分かるまでは」

「あいつ等?」


何の話だとばかりに須垣先輩が肩を竦めた。

本気で分かっていないのか、ワザとなのか、俺の目には判らなかった。

須垣先輩は俺に視線を向けてくる。


「君なら大丈夫と思ったんだけどな」


意味ありげな言葉に俺は愛想笑い。

残念、俺は外見地味、表面はイイ子ちゃん。


でも中身はそんな真面目じゃない。

面倒だからイイ子になってるだけだから。


「そこまでして、どうして関わるんだい? 不良たちと。君にメリットなんてあるのかい」

「メリット、デメリットだけで物事考えていたら、この世の中生きていけませんって。そう考え始めたら世の中デメリットだらけですよ」


「じゃあ質問を変えようか。今から君のすることは、完全にデメリット行為。なのに敢えてそっちの選択肢を取る理由、教えてくれないかい?」


んー、教えたところで、結局これは私情だしな。弁解にしかならないっつーか、さ。

俺は透のスケッチブックを軽く先輩に見せ付けて笑った。


「ま、堅苦しく言えば物事には何事も優先というものがあるので。少なくとも、今の俺は“おサボリ”が優先なんですよ。サボって生徒会やヨウ達にとやかく言われても、ね」

「ほんとほんと。特にヨウちゃんが怒ったらめっちゃ恐いよ。ケイちゃーん、後で一緒に叱られようねねねん」


肩に手を回してくるワタルさんに引き攣り笑い。

いやさ、やっぱヨウに怒られるって思うと恐いっつーか怖いっつーか……恐怖! あーくそっ、男だろ。決めただろ。腹括れ、俺!

今、機会を逃したら、次の機会がいつ訪れるか分かんねぇだろ!


俺は須垣先輩に視線を向ける。

呆れている、というよりも、どっか面食らっているような顔を作っていた。


「なんで、そこまでするんだ?」


先輩の問い掛けに俺は精一杯、強がりを言ってみたりする。



「なんで? 不良の舎弟だからですよ」



舎弟になった時点でデメリットばっかり選んじまう運命なんだ。俺って。

俺はワタルさんと一緒に、須垣先輩を置いてその場を後にした。


⇒#04