「昼休み、俺はハジメや弥生と一緒にヨウのクラスで昼食を取った。ヨウは勿論、ワタルさんもいた。途中、タコ沢がヨウにパシられて教室にやって来た。俺がつるんでいる不良は今言ったメンバーだ。

いつもだったら体育館裏で飯食っているんだけど、透も知っているだろ? 俺達は今、生徒会から疑いを掛けられている。しかも監視されている。

だから下手な行動できなくて、昼食を取り終わった後はヨウのクラスで駄弁っていた――他に聞きたいことあったら聞いてくれ、透」


俺の説明に透は下唇を噛み締めて俯いてしまう。気付いちまった、襟元を掴んでいる透の手が震えているのに。

「ごめん、圭太くん」


涙声を出して透はそっと手を放してきた。

俯いちまっているから、顔は見えねぇけど、透の肩が震えているから、もしかしたら泣いているのかもしれない。


いや、透は泣いていた。

透が顔を上げてくれたから、分かりたくなくても答えが分かちまった。


泣き顔を誤魔化そうと透は必死に笑ってくるけど、変に顔が歪んで失敗に終わる。

ブレザーの袖口で涙を拭いた透はまた俺に謝ってきた。


「突然、ごめんね。僕、ちょっと取り乱してて。ほんとにごめん」

「透、何かあったんじゃないか? 不良に何か関係することで。その怪我、なんかあったんだろ?」 


俺の問い掛けに透の顔が強張った。


やっぱり何かあったんだ、透の奴。


不良に関係する何かであったなら、尚更放っておけない。

もしかしたら舎弟に関係する何かかもしれないし、見捨てておけねぇだろ。こんな風に泣いてる透のことをさ。


とにかくまずは保健室に連れて行こう。

怪我の手当てしてもらって、それから話を聞こう。昼休みはもう終わっちまうけど、この後は掃除だし。

それに仮に授業に遅れたとしても、友達を保健室に連れて行く行為はサボりじゃないよな。授業遅れても大丈夫だよな。


あれこれ考えていたら、透が顔をクシャクシャに歪めて本格的に泣き始めた。まさに男泣き。


いつもはのほほーんとしているのに、こういう時になると男らしく豪快に泣くもんだから俺は大いに焦った。男子便所に透のむせび泣く声が響き渡る。


「透、どうしたっ。ちょ、待て。落ち着け。
いや、泣いちゃダメっつーわけじゃないぞ。悲しい時は泣け。遠慮せずに泣け。男が泣いちゃイケない法律なんて何処にも無いしな! けどちょっと落ち着け。

せめて声、こえ、こえを抑え……あ、無理そうか? じゃあそのままでいいから、保健室行こうぜ。な?」


「むぅっ、っつ、うぅ、わぁーっ、わぁっ、わぁっ」


しゃくり上げている透が何か言おうとしてくれるのは分かるんだけど、残念なことに俺と透の間に以心伝心はないみたいだ。


ちっとも伝わってこねぇ。困った。困ったよ。こういう時、どうすればいいんだ。


泣きじゃくる小さな背中を軽く叩いて、「取り敢えず保健室行こう」声を掛ける。


透は何度も首を横に振った。

保健室に行かなくてもいい、ってことか? ということは教室に戻るってことか?


いやでも、その状態じゃ授業なんて無理じゃ……あーくそっ、こうなりゃ無理やり連れて行く! こんなところでグズグズしててもしょうがないだろ。


「っ、け、圭太くんっ……いいっ、いいんだっ、僕っ、連れっ……もらう資格ない……」


俺の決心が顔に出ていたらしい。

途切れ途切れに言葉を発しながら、透が俺の行動を止めてくる。


「僕っ、圭太くんをッ……疑って……そういう人じゃないッ、知っているのに。ごめんっ、圭太くんっ……ごめんッ」

「透……?」


「自分が可愛くてさぁっ……アレが大切でさぁ……。僕、君を……疑っちゃったんだ。最低なことをしようとしてたんだっ。ごめん、ほんとに圭太くん……ごめんね」


言葉を震わせながら、透は俺に泣いて微かに笑って謝ってきた。


どうして謝ってくるんだよ、透。

なんでお前、そんなに辛そうな顔しているんだよ。ゼンッゼン分かんねぇよ俺。