「アキラっつーのは中学の時つるんでた奴のひとりで、名前は魚住 昭(うおずみ あきら)。奴はとにかく顔が広かった。性格に一癖も二癖もある……まあ、とにかく取っ付きにくい性格をしてた。

グループが分かれた時、奴はヤマト側に付いたんだが、あいつは特に敵に回すと厄介なんだ。顔が広いっつーことは交流も広い。誰と繋がりを持っているか分からないんだ。

グループが分裂したあの頃は、まさかここまで最悪の仲になるとは思っていなかったから危険視してなかったんだが」



「アキラと繋がりを持つ奴なんて、大体ろくな奴じゃないけどねんころり。僕ちゃん、おトイレに行ってきまーす」



ワタルさんが席を立った。

これ以上話なんか聞きたくない、とでもいうような態度だ。


さっさと教室を出て行くワタルさんに違和感を覚えたのは、俺だけじゃないようだ。

弥生が心配そうに「ワタル、その人と何かあるの?」とヨウに尋ねる。


「だから今言うのはヤだったんだ」


ヨウは顔を顰めて、頭の後ろで腕を組んだ。そして軽く溜息。


「あいつとアキラは親友だったんだ」 


親友だった。

それって危険視しているアキラって奴とワタルさんが?

じゃあワタルさん、教室を出て行ったのは単に話を聞きたくないと思ったわけじゃなくて……。


「まぁ、あいつの口から直接聞いたわけじゃねぇんだけどな。少なくとも仲は良かったんじゃないかと思う。俺にはそう見えた。小学校からの付き合いだったって聞くしな。ウザさもどっこいどっこいだった」


ヨウは軽く肩を竦めた。

ワタルさんと同じくらいに、ウザイ人がいるんだ。

一度お目に掛かってみたい。あくまで遠くで見るだけがいいけどさ。 


けど今の話が本当なら、ワタルさん。辛いだろうな。元親友と対立関係なんて。


俺だったら辛い。

たとえ“元”が付いていたとしても、昔、親友だったことには変わりないんだから。結構、ヨウ達の中学時代って複雑な人間模様だよな。


「今、話さなくても良かったんじゃないか」


ヨウが意見した。ハジメはどことなく可笑しそうに笑って、飲み終わったコーヒー牛乳のパックを潰し始める。


「ワタルは弱くないから大丈夫だよ。彼は強い――強いよ」


意味あり気に笑うハジメに違和感、というか“何か”を感じた。これが具体的に何かって言ったら分かんねぇだけど、何か、今のハジメは違う。

知り合って日の浅い俺がそう思うくらいだから、ヨウや弥生は尚更、違和感みたいなのを感じたと思う。

ハジメの言葉の真意を探るような眼差しを作っていた。

俺達の視線から逃げるようにハジメは「まあさ、」と明るい声を出した。


「ヤマトやアキラが絡んでるかどうかは置いといて、この1週間乗り切ろう。お授業をサボらずに、あの会長様を見返してあげましょう」

「だよねぇー。私たち何もしてないし。あ、そうだ。私、チョコレート買ってきたんだ。みんなで食べよ。新発売だって!」


話題を逸らす弥生の発言のおかげで、一気に空気が軽くなった。

チョコの箱を開けて机に散らばせる弥生に、

「いっちばーん」

ハジメがチョコを取っていく。

「ちょーっと」

弥生はハジメに文句言ってたけど、俺は二人のやり取りに思わず一笑。


ヨウと目がかち合ってまた一笑。