携帯を握り締めてツッコミたい気持ちを抑えていたら、先生から愛想なく名前を呼ばれた。めちゃめちゃビビッて思わず身を強張らす。


ヤバイ、見つかったか?

冷汗を流しながら顔を上げたら、チョークで黒板を叩きながら「ここの解答は」質問をしてきた。


良かった、携帯弄くってるところを見つかったわけじゃないんだ。


俺は素早く引き出しに携帯を突っ込んで立ち上がる。

黒板に書いてあることは教科書の問題だよな。俺は教科書に目を落とした。


えーっと何々。A、A、B、B、B、Cの6文字を横一列に並べる。この時、二つのAが隣り合わな……合わない……はぁ?


これはこれでピンチッ、ワッカンネ!


何言っているんだよ、この教科書。

俺に分かる言葉で説明しろって。


答えられなかったら恥ずかしい思いするし、適当に答えて間違っても恥ずかしい思いするし、正解をビシッと答えてさっさと座りたいんだけど答えが分からないし。


だから当てられたくないんだよチクショウ。


焦りに焦って教科書と睨めっこしていたら、先生が教卓の上を大袈裟に叩いてきた。

心臓が飛び上がった俺を余所に先生が怒声を上げる。


「苑田! 起きんか苑田! ……土倉! お前もだ!」


答えられない俺に怒ったわけじゃなくて、先生は爆睡している弥生とハジメに怒ったみたいだ。

俺は後ろを振り返る。

俺のいる列の最後尾で爆睡しているのはハジメ。

その隣で同じく顔を伏せて寝ているのは弥生。二人とも授業受ける気ゼロみたいだ。


「まったく」


先生は愚痴を漏らすと、俺に座るよう言って二人を起こしに向かう。

助かった……俺は腰を落として大きく溜息をついた。

まだ須垣先輩が条件を出してきて一日目なんだけどさ。


不良さま達が真面目に授業に出席してらっしゃるせいで(真面目に出席してるって言っていいのか?)、真面目に授業……受けられないんだけど。


前の時間にヨウは勿論、ワタルさんからもメールがあったし。不運だ、俺。

二度深く溜息をついて俺は引き出しに突っ込んだ携帯を確認する。

返信していないのにまた一通、ヨウからメールがきていた。 


『From:荒川庸一 件名:無題
 返信がねぇ。まさかケイ。先公に見つかったか? やっちまったか(笑)』


誰のせいで俺がこんな思いをっ……。


頼むから、静かに平和に平穏に授業を受けさせてくれよッ。

頼むから、真面目に授業を受けなくてもいいから、真面目に授業を受けている俺の邪魔をするなよッ。


(まだ余裕だけど)出席状況が危ない今、必死で授業内容を理解しないと評定が。


最悪、進級が……なんで俺、こんなに悩まされるんだろう。

不良さまと頭痛のする毎日を過ごしている上に、勉強のことで悩む日が来るなんて。


……泣くな、圭太。

こんなのいつものことだろ。ファイトだ、圭太。


俺は心の中で涙を呑んだ。