案の定、不良様方、俺達を止めようと先手を打ってきた。


「チッ、邪魔なんだよ。暇人ども!」


いや、俺達も十分に暇人……なんてツッコミを入れたくなる。


不良のひとりが道端に倒れる。

ヨウが蹴りを入れたみたいだ。

チャリのスピードにヨウの蹴りが入ったら、スッゲェ大ダメージを喰らうんだろうな。


そうやって掴み掛かってくる不良を蹴ってヨウが俺をカバーしてくれたおかげで、難なくチャリは団体様を突破することができた。


後ろから罵声が聞こえてくるけど、無視してチャリのスピードを出す。

まだ諦めていないのか、不良様方は俺達を追い駆けて来てるみたいで声が聞こえてきた。


「粘着質高いな、あいつ等。シツケーの。ケイ、撒けるか?」

「やってみる」


俺はフルスピードを出してチャリを走らせる。


「ヨウ、しっかり掴まっとけよ。裏道に入る」

「ッ、うわッツ。落ちるかと思った……テメェ、んなこと先に言えって!」


ヨウの文句を聞き流して俺は細い裏道に入った。

俺の荒運転についていけてないのか、ヨウが前のりになって俺に体重を掛けてくる。重たい……根性で踏ん張れ、俺。

人気の無い裏道を俺達はチャリで通り過ぎて行く。


風の切る音と一緒に罵声は聞こえなくなっていった。

追って来れないんだって気付いたのは裏道を抜けてしまってからだ。


俺はフルスピードから普通のスピードまで速度を落として、大きく息をつく。


「どーにか撒けたな」

「後でワタルに連絡して、あいつ等を片付けてもらっとくか」

「いいのかよ、そんなことワタルさんにさせて」


「今日のワタル、喧嘩したくてウズウズしてるっつーか、胡散溜まってるみてぇで機嫌悪いからな。喜んでやってくれるだろ」


おいおいおい、自分の蒔いた種だろ。自分で刈れって。

でもワタルさんなら確かに喜んで喧嘩しそうだな。


想像できるから、俺の背筋にイヤーな汗が流れた。


背中を小突かれる。

ヨウに視線を送れば、楽しそうにヨウが笑って俺に体重を掛けてきた。


だからッ、重たいんだって……ヨウ。体重、掛けるなって。


「ラーメン食いに行こうぜ。ラーメン。今ので余計に腹減った」


能天気によくもまあ……俺なんて不良の団体様目の前にして胃が縮みこんだよ。

けど安心したのか、俺もなんか小腹が。


うん、腹減ったな。

俺、いっぱいいっぱいチャリ漕いだし、食べ盛りの高校生だしな。


「ホント腹減ったな。強行突破なんて凄いことさせるから、まーじ腹減った」

「スゲェことも何もぜってぇデキるって思ったし?」

「何を根拠にそう言えるのか、めっちゃ不思議なんですけど」

「バーカ。俺達、舎兄弟ならフッツーに突破できるだろ」


「なんだそりゃ、理由になってねえって」



ヨウの言葉に笑っちまった。俺につられてヨウも笑ってくる。


この一ヶ月。

相変わらず不良の恐さに嘆いたり、不良に喧嘩売られたり、巻き込まれたりしては頭を悩まされたりしてるけど、平和っちゃ平和っぽい生活を送っているんだ。

日賀野の件みたいに特別厄介事に巻き込まれる事件ってのは、今のところ無い。

少しだけど俺達、舎兄弟っぽくなったしな。

いや、舎弟白紙の件を諦めたわけじゃないけどさ!


とにかく最近の俺の生活はスッゲー穏やかなんだ。平和そのものってカンジ。


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