「おい、ケイ。聞いてるのかー?」

「え、ああ、悪い悪い」


自分の努力に涙している時に話し掛けてきやがって! 空気読め!


心中で毒づく俺は、チャリに跨りながらヨウに言った。


「駅前に美味いラーメン屋がデキてるらしいから、そこにでも行ってみるか?」

「ラーメン、いいな。最近食ってねぇし、そこ行こうぜ」

「オーケーオーケー。って、ヨウ、昨日……何件喧嘩をしてきた?」

「ン? 何だよ突然。俺が覚えてる限り、三件くらいか? 何で?」


な、ん、で、だ、あァ?


よくぞ。よくぞ言ってくれたよ、舎兄の兄貴。


前方を見たまえ、前方を。


俺は前を指差した。

チャリの後ろに乗ってくるヨウが俺の指差した方角を見て「わぁーお」って声を上げた。

俺達の前方には恐い顔をした不良の団体様がいらっしゃる。


「荒川、昨日はよくも」「今日こそはその面、ぶち崩してやる」「例の舎弟がいるぜ」



不良様方のお声が聞こえ、俺は泣きを見ることになるんだと察して溜息をついた。

ヨウは勿論、俺も敵視されてる。完全に俺、とばっちりを喰らってる。


「はははっ、スッゲェ数。俺、そんなに喧嘩やったっけな? 覚えねーや」

「わ、笑い事じゃないから……どうするんだよ」


「そうだな。負けはしねえけど、ラーメン食う時間が遅くなるのはアレだしな」


お前はこの状況よりもラーメンを心配するのか、ラーメンを。


「ラーメン早く食いてぇし……」


悩むヨウのこの後出てくる言葉が予想できてしまい、俺は二度、三度、溜息をつく。


「……しっかり掴まってろよ。振り落とされても俺、知らないからな」

「そうこなくっちゃな。うっし、突っ込め」


つッ、突っ込む……え? 嘘、マジで? トンズラするんじゃねえの?!

サァーッと青くなる俺に対して、舎兄は「強行突破だ」って爽やかに言いやがる。

このイケメンめッ、そんな無茶振りを口にする時までカッケー面しやがってよぉ。もうどうなっても知らないからな!


俺は自棄になってペダルを踏んだ。恐い顔をした不良の団体様が突っ込んでくる俺達に身構えてくる。止められないように俺はペダルを素早く漕いだ。


チャリと団体様の間の距離が短いから、スピードがついてくる前に止められる可能性がある。ってことはハンドルを切って、団体様を器用に避けた方がいいかもしれない。


けどそれは危うい賭けだと思うしな。


「ケイ、余計なことは考えるな。突破することだけに集中しとけ」


舎兄が俺に助言してくる。

無茶言ってきたワリには頼もしいじゃんかよ。

俺はヨウの言うとおり、余計なことは一切考えないでなるべく短距離でもスピードが出るように足に集中して、思いっきり団体様の中に突っ込んだ。