「利二、俺さ。ますます、舎弟生活から抜け出せなくなったっぽい。喧嘩に強いわけでもねぇのに、ヨウは俺を舎弟に指名した。断れることもできたけど、流れ的に俺返事しちまったんだ。『足にくらいにしかなれねぇからな』って」


痛む身体を無視して俺は足を組んだ。


「これからどうなるか、どうするか、正直わっかんねぇ。なるようになるとは思うけど…まあ返事しちまったものは仕方ないし、どうにか頑張ってみるしかねぇって」 

俺の話に利二は少し考えた素振りを見せて、ストローから口を離す。


「ホントにカッコばっかりつけるんだな、田山は」

「……今の会話の何処にカッコつけた?」


「すべてにだな」


バッサリ切り捨ててくれるな……ッ今ので軽く闘争心に火がつきそうなんだけど。


利二、お前、昨日の喧嘩の続きでもしたいのか?


イラッとしている俺とは対照的に利二は表情を緩めて視線を外してしまう。


「悔いていた。お前を置いて逃げたことに」


利二の声はスッゲェ落ち着いて静かだった。

苛立っていた俺の気持ちは、利二の言葉で萎んでいく。


「あの時、残るべきだったんじゃないか? 逃げるべきではなかったんじゃないか? 荒川に助けを求めに行ったはいいものの、ずっと悔いていた。
荒川と一緒に戻ってきたお前のヤラれように、後悔は増すばかりだった。自己嫌悪するほどに。
そしてお前に腹を立てた。一種の八つ当たりだな、あの時、お前に喧嘩を吹っ掛けたのは」


「利二……」


「それでまた自己嫌悪だ。自分は何やっているんだ……って、な」


微苦笑する利二が飲み終わった紙パックのカフェオレを潰し始める。

俺は黙って話に耳を傾けていた。



「自己嫌悪ばかりしていた時、帰り際、お前が追い駆けて来た。お前は間違いじゃなかったと言ってくれた。そのヒトコトが悔いていた気持ちを断ち切らせてくれた」



潰していた手を止めて、利二が俺に視線を送る。





「カッコばかりつけるお前が、また馬鹿なことをしようとしたら勝手に止めに入る。それくらいのカッコをつけても良いだろ?」





遠くから聞こえてくる体育をしている生徒達の声、教師の太い声。

吹き抜ける風の気持ち良さ。そして利二の言葉のくすぐったさ。


「カッコつけ」


俺は思わず利二に悪態をついて照れ隠し。


「また……あんな目に遭っちまうかもしれねぇんだぞ。どっちがカッコつけだよ」

「お前よりはマシだと思っているがな。別に昨日のことをとやかく言うつもりもないしな」

「俺、これからもヨウの舎弟なんだぞ。マジで不良になっちまうかもしれないぜ?」

「言っただろ。お前が不良になっても変わらず接してやるって」