――習字を馬鹿にするなよ、俺はあれで精神を鍛えられたんだぜ! 



習字ってのはな。 


イチに墨汁をたっぷり吸った筆を持ち、ニに半紙と向き合い、サンにどれだけ字を綺麗に正確に丁寧に書けるか勝負をする。


謂わば真剣勝負なんだぜ! 一瞬の気の乱れで字は崩れちまうんだ!

ちなみに熱弁している俺だけど、習いたくて習っていたんじゃないからな! 習わされていたんだからな!




「あの状況で習字を語るなんざ、大したプレインボーイだぜ」



ケイが放った言葉を思い出し、ヤマトは軽く笑いを漏らした。

これから自分に何かされる分かっていながら、怯えながら、尚も自分に勝てるモノは習字だと猛反論し、あんなフザけたことを吼える。しかも大真面目に。


「やっぱ面白い奴だな。無理やりにでも舎弟にすりゃ良かった」  


ヤマトは口笛を吹いて足を組みなおす。足元から呻き声が聞こえた。

目を落とせば、自分が先程伸した不良が呻いている。


呻いている理由は分かる。自分が不良の上に乗っているからだ。


しかしヤマトには関係のないことだった。

呻いている不良の頭を足で小突き、「静かにしろ」と脅す。


一応、声は聞こえなくなったが直ぐに声が聞こえてくるだろう。


自分から喧嘩をふっておいて、このザマかよ。情けない奴。もう少しシメてやろうか。 

肩を竦めて不良を見下ろしていたが今日は気分が良い。

勘弁してやるとばかりに、ワザと体重をかけた。潰れた声が聞こえたがヤマトは無視した。



「さぞ見物だったろうな。荒川の憤った顔。次、会った時が楽しみだな」



どんな顔をして自分に突っ込んでくるか。

世界で一番気に食わない奴の顔を思い浮かべながら、ヤマトはせせら笑った。


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