「まだ父さんを追いかけていると言う事。」
何故かおるが、
孝史には信じられない鳶の銀杏丸の話を言い出したのか、
その時になって初めて分かった。
せっかく父に会え、
こうして一緒に暮らす事になっていると言うのに、
その父が危害を受けるようになったら…
そう考えると孝史も心配になっている。
「可能性はあるでしょ。
本当は父さんの友人がきちんと借金を返してくれていたら良いのだけど…
父さんの記憶だって、
その人たちに見つかって摑まったか、
うまく逃げたかは分からないけど、
そのあたりのトラブルで記憶が消えてしまったかも知れないでしょ。
何かあったのよ。
どうしてそんな父さんが赤ん坊の鳶人を連れていたかは分からないけど…
その事は考えないで、とにかく今は…
私もここにある生活を守りたい。
私… ここは素晴らしいと思えているの。
ここで親子3、あ、4人で、そうか、あの多恵さんもだから5人になるけど、
ここで暮らしたい。」
突然の母の死で襲われた心細い境遇。
母の死をゆっくり悲しむ間もなく訪れた、役所の人と施設の人。
その人たちの言葉から告げられた養護施設での暮らし。
あのままでは孝史の心は完全に壊れてしまっていた。
それで施設を抜け出し…
幸せだった思い出の場所でギナマと出会い、
不思議な世界のようだったが、
ギナマがいると言うことで、冷たい風雨からは守られた。
そして今はこうして行方が分からなかった父と再会でき、
鳶人という不可解だが可愛い弟まで出来、
やっと将来のビジョンが描けると言う時に…
父に何かがあったら大変だ。
孝史もかおるの言葉が全面的に理解できた。

