体育館が静かすぎて僕は嫌だった。
聞こえるのは、木が揺れる音と、僕の鼓動。
『そっそうなんだ…』
『うん』
会話が途切れた。
百合の顔を見られない。でも顔を見なくても分かる事。
百合のすすり泣く音が聞こえた。
体育館に響く音は、とても悲しい音だった。
目の前で百合が泣いているのを、僕は見てみぬフリをした。
もし百合に触れたら、
僕は抱きしめそうになったから。
僕は、耐えた。
そんな静かな音に加わった百合の声。
『優君!!!私…私まだ…まだ優君が…』
『百合…やめろ。それ以上言うな。俺は…ナナしか見てねぇ…』
『…ぅ…っ…ごめんな…さい…ばいばい…』
百合は体育館から出て行った。
僕は声を出さずに静かに泣いた。
ただ上を向いて天井を向いて。
僕の頬に温かい涙が流れるんだ。
ゆっくりと、同じ速さで。
体育館には、今までここに百合がいたという証のボールと、一人静かに声を出さずに泣く、弱虫な僕がいた。


