―ザーン…



波が僕をナナの過去から引き戻す。
僕は今何を考えているのだろう。
わからない。
でもひとつだけ分かる事があるんだ。

今僕は涙を流しているという事。


『…引いた?幻滅した?』


『…ナナ…俺…』



『やっぱり…びっくりするよね?』



違う…違うよ…ナナ…
僕は君を幻滅したりはしない。
僕のこの涙の意味…分かる?

僕はナナを抱き締めた。暗い中、ナナを抱き締めた。
強く、強く抱き締めた。



ナナはびっくりしていた。
そしてナナは僕の腕の中で泣いた。
今まで自分の中で溜めていたものを吐き出すかのように泣いた。



『ナナ…俺は君を守るよ。だから…ナナ?もう溜めないで。ナナには俺がいるから。ずっとずっと傍にいるから』



『ぁ…りがとぉ…』



『ナナは…俺の傍にいてくれる?』



『うん…いるよ…優』



ナナ…
僕達は似ていたね。


僕はこれからナナがいれば幸せだと思った。



空には不気味な紅い月が僕達を見ていた。