「ケーキを食いながらだと、女はよけいに興奮するらしい」


俺たちのクラスで一番女に詳しい宝田がいった言葉だ


そもそも俺は女と手をにぎったこともない


よけいに興奮すると言われたところで、俺にはさらなる妄想を引きおこす下地すらないのだ


そんな情けない女の姿などまったく興味もないのだが


そもそも女とは、男の何倍もみだらでふしだらな生き物らしい


年中あのことばかり考えているらしい


とくにショートケーキは甘いクリームで濃密な快感を与え、思考をまどろませたところでイチゴの酸味で刺激を与える、最高に危険な物らしい


だから女たちはケーキ屋に群がるのか




「あのシュシュというやつは、使い古した下着をまいているらしい」


さすが俺たちの宝田、女と言うものをどこまでも熟知している


「だからあれをまいている女は…アピールをしているんだぞ!」


なんと! はずかしげもなく、あんな堂々とアピールをしているのか!


宝田! 俺は女という物が心底怖い!


四六時中あのことばかりを考えている生き物と、俺たちとではとうてい同じ価値観をわかちあうことなどできそうにない


ひたすら己の道をつきすすむことを決めた俺の日常に、悪魔のささやきがふりまかれた




「…ねえ、スガくん…こんどあたらしいケーキのお店できたんだけど…宝田くんも誘っていっしょにいかない?」


ふだんおとなしい紺野が恥ずかしそうにしてオレに言ってきた


ケーキを…


たべる…


だと…?


そういう紺野の頭に、苺のようなあざやかな色のシュシュがまかれていたのを俺は見逃さなかった


こいつまさか…


俺に…


俺と…


そうか…そういうことか…


「わかった。宝田に言っておく。俺の方はもう、覚悟はできているから大丈夫だ」


もちろん宝田にはいわない。女は“気を利かせる男”が好きなのだ




その日、俺は紺野と二人きりであうだろう




そして紺野の口に、とびきり真っ赤な苺を加えさせ「みだらなおんなだ!」と叱りつける自分の男らしい姿をどこまでも想像してしまうのだった