黄昏色に、さようなら。


「クソったれがっ!」


そんな私を背に庇うように純ちゃんが低く言い捨て、スッと一歩、足を進める。


「よりにもよって坂宮を使うとはな……。グリードの専売特許が、悪辣と愚劣と卑怯だってのを、忘れてたぜ」


「あら、何のことかしら? アタシは、加瀬君に拉致られた風花が心配で、追いかけてきただけよ? だめじゃない、ちゃんと家の送り届けなくちゃ。仁王様にチクっちゃうわよ?」


クスクスと笑うその声も口調も、良子ちゃんのものには違いないのに、その瞳は暗黒に染まっている。


黒い瞳の中央に、スッと弓なりの猫のような赤い瞳孔が、禍々しい光を放つ。


異形だった。


その非現実感が、背筋に薄氷を落とす。


「地道に電車とバスを乗り継いで追いかけてきたってか? 白々しい嘘は時間の無駄だ、さっさと大人しくその体から出る方が身のためだぞ」


低い声で唸るように言う純ちゃんに、良子ちゃんは、外人めいた仕草で肩をすくめただけで、無視することにしたらしい。


「物は相談なんですが、望月風花さん」


あくまで私に鋭い視線を投げつけて、それでも口元は笑んだまま、静かでことさら丁寧な言葉で語りかける。


「……」


「この女の肉体を殺したくなかったら、私と一緒に来てもらえませんか?」


無言で睨みつけていたら、良子ちゃんの殻を被った悪魔は、ケタケタと獣じみた甲高い笑い声を上げた。


「別にこの女が死んでも、私は困りません。恋人でも、家族でも、その辺の通行人でも、それこそ人質になる人間は吐いて捨てるほどいますからね」


そして、悪魔は笑いながら問う。


「あなたは、あなたの心は、どこまで耐えられますか?」と。


『風花、聞こえるか風花』


息を飲む沈黙を破ったのは音声ではなく、私だけに向けられた純ちゃんの心の声、テレパシーだった。


『うん……、聞こえるよ純ちゃん』


『坂宮以外の奴はみんな雑魚だ。俺が先に突っ込んで、アイツらを片付ける。その隙に、坂宮を頼めるか?』