黄昏色に、さようなら。


「俺が、怖いか?」


「違っ、違うよ!」


静かな問いに、唯一自由に動く頭をブンブンと振る。


純ちゃんが、怖いわけじゃない。


例え、もしも今目の前に居るのがパラレルワールドの純ちゃんでも、怖いとは思わない。


でも、夢を現実だと認めてしまったら、


きっと、私は『思い出したくないことまで思い出してしまう』。


それが、どうしようもなく、怖いの――。


小刻みに震える背を、幼子にするようにトントンと撫でて、純ちゃんは優しい眼差しで真っ直ぐに私の目を見据える。


「俺は、お前が忘れている三か月間の望月風花という人間を良く知っている。俺が保障するよ。お前は、自分の記憶に押しつぶされてしまうような弱い人間じゃない」


『自分の記憶に押しつぶされる』


そう、それが一番怖かった。


許容できないような現実が突き付けられた時、自分がそれに耐えられる自信なんか、私にはない。


「純ちゃんは、私を買い被ってるよ。私、弱虫だから、いっつも逃げることばっかり考えてるんだから」


『やんなっちゃうよ』と、笑おうとして、失敗した。


ああ、もう。


なんだか、自分が情けなくて、涙が出そう。


「いや、お前は強いよ。お前は、何が大切なことか、自分で選べる人間だ」


「純……?」


腰に回した右手はそのままに、左手がそっと包み込むように頬に触れ、純ちゃんの顔が近づいてくる。


「俺が本気で惚れた女だからな」


低い囁きが耳朶を叩き、


抗う間もなく、そっと唇に落とされたのは、甘い口づけ。


その刹那、頭の中で何かが弾け飛んだ。