――また、あの夢だ。
ここ数年、何度となく繰り返し見てきた、『誰かと逃げる』夢。
最初は、まるで映画のワンシーンを繋ぎ合わせたような、脈絡のない映像の連なりにすぎなかった。
例えるなら、そう、
お祖父ちゃんが昔、私が子供のころに見せてくれた秘蔵のサイレント映画のような、まったく音の無いただのモノクロ・ビジョン。
それがやがて色を持ち、音を纏い、感触を伴うようになった。
でも、こんなにリアルなのは、初めてだ。
今までは、一緒に逃げている相手が誰なのか分からなかった。
ましてや――。
「私の、ファースト・キス……」
唇に触れた時の、感触。
柔らかくて温かいあの感触が甦ってきてしまい、反射的に両手で口を覆い隠す。
そりゃあ、夢の中のことだけど、
あそこまでリアルだと、なんだかとってもショック。
その上、相手が幼馴染の『純ちゃん』、
加瀬純一郎だったなんて。
幼馴染のお隣さんで、同じ高校で、おまけに同じクラスで毎日顔を突き合わせなきゃいけないのに。
うううっ。
今日、どんな顔をして会えばいいのよ、私?



