なぜ泣くんだろう。

アタシの恋は、終わったんだ
そう思ったら…涙が出た。

激しい感情が溢れ出すことなく
ただただ、静かに穏やかに

アタシは、その事実を受け入れている。


心のキズは時間が解決してくれるから
そう言われた。

ぶつけようのない悲しさを
どう抑えたら良いのか解らないまま

どれだけの時間をやり過ごしたら
アタシのキズは癒えるのだろうと思ってた。


恋の完結は、自分でも驚くほど
意外な形で訪れていた。


時間では無かった。

醜い嫉妬心を満たして
アタシの恋は完結したんだ。


それなのに
なぜ…?

アタシは泣いているんだろう。


卓己くんの背中のあたたかさは
アタシを落ち着かせて安心させる。

人の温もりの不思議なチカラに
身をあずけて、こころを委ねた。



『背中、ぐしょぐしょ…ごめんね』


シャツに手を当てて
涙で濡れた所をまさぐる。


『ま、気にすんな。
ぬるくて若干気持ち悪いくらいだから』


『だから、ごめんって!
…あの、色々ありがと卓己くん』


自転車から降りて、卓己くんに向き直る。
卓己くんは『じゃ、明日な』と、
少しだけ微笑んて自転車をこぎ出した。

卓己くんの姿が見えなくなるまで見送って
アタシはマンションに戻った。