病院の自動ドアをこじ開け、親太郎の病室まで走った。
途中で患者さんとぶつかりそうになったが、立ち止まって謝ってる暇なんてなかった。
静かな廊下にあたしの慌ただしい足音と、荒い息遣いが響いている。
北病棟
303号室。
そこで立ち止まって、一度息を整えた。
激しい心臓の音が、あたしの耳を支配している。
唇は乾ききって、少しでも口を開ければ切れそうなほど痛かった。
ドアに手を当て、ゆっくり、横に引く。
親太郎は、静かに寝ていた。
その横にはおばさんが座っていて、ずっと親太郎の寝顔を覗きこんでいた。
あたしの立てた物音に気付き、こちらに目を向けたおばさん。
「あ、菜緒ちゃん」
今まで全速力で走ってきたせいで、おばさんの声がとても遠くに聞こえた。
「ごめんね。急に電話なんかして」
「……いえ。それで、あの、親太郎は?」
「今、ちょっと落ち着いて眠ってる」
あたしは、震える足で一歩一歩、親太郎のベッドに近づいた。
膝は、疲れと恐怖で支える力を無くし、今にも床に崩れそうだった。
全身に流れる汗。
呼吸も、なかなか整わなかった。


