キャンバスに塗り重ねた暗い色の絵の具は、あたしの心を端的に表している。


鬼のような顔の女が叫んでいる、絵。

醜い絵だ。



こんな絵は描きたくないと思いながらも、絵筆を動かすあたしの右手は止まらない。


黒、赤、黒、赤、黒。

チューブから油絵の具を搾り出す。

赤、黒、赤、黒、赤。

キャンバスの上はカオスだ。




「小早川結(こばやかわ・ゆい)さん。もう8時だよ」


声を掛けられ顔を上げると、美術部の先輩がいた。

窓の外は暗い。



先輩はあたしのキャンバスを覗き込み、

「まるで狂気の沙汰だね」と呟いた。