「入社してからずっと片想いしてたのに、今になって何がアイツを動かしたんだろうな」
「……」
「とにかく、もう少し2人の様子を見ておくから。奈央には一応直接報告しようと思って。早い方がいいだろ?」
コトンと置かれたグラスはすでに氷だけが残っていた。
コースターの下に紙幣を置くと、椅子に掛けた上着に手を通す。
私は拓海の動作をただ見守っているしかなかった。
「また連絡するから」
そう言ってカウンター越しに手を伸ばし、私の髪を優しく後ろへ梳くと、ニッコリと笑って出口へ向かう。
カランと音が鳴り、視界にあった拓海の背中がドアで遮られた。