そう言えば前にドリッパーが欲しいって言ってたな。


明日にでも買いに行こうと思って、グラスを磨いているとカランとドアベルが音を奏でた。



「どうして?」


「たまにはね」


ドアから入ってきた人物に思わず声を掛けると、スーツの上着を脱ぎながらカウンター奥の席へ腰を下ろし微笑んでいる。



「奈央の自信作が飲みたい」



煙草に火を付ける拓海に私は頷いた。



今まで何度かこのバーに来た事はあった。


だけど、いつもは前もって連絡があったし、店内で言葉を交わすことなく静かに飲んで帰るだけ。



マスターは私の相手である事も、私達の状況もすべて知っている。