拓海が奥さんの元へ行ってから、私の部屋へ来る事がなくなった。



――当然の事。


分かってる。


だけど、部屋に残されている拓海の私物は持ち主を待っているように見えて。



何度……


声を殺して泣いただろう。


何度……


拓海の名前を呼んだのだろう。



会社でも顔を合わせる事がなかった。


私が避けている。


実家の兄の具合が悪いと嘘を付いて有休を使ったり、直行直帰を繰り返していた。



拓海と話せない代わりに、上原さんへメールを飛ばす。


上原さんからは『分かった』と返ってくる。



――きっと気付いてる。



もう私達がどうにもならないと言う事を。